表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

鍋とヤンデレと妹

 ビデオの紹介を信じれば、姫野アキの胸はGカップらしい。

 今日入手した最も有意義な情報だ。


 DLしたビデオを見ながら、重力と人体のとある部分の揺れについて思案に暮れていると、スマホから着信音が聞こえてくる。


 慌ててベッドの上のスマホを取る。

「いや、やっぱり明日は・・」

「ん? どうしたのヨシにぃ


 またアキから着信だと思ったが、この声は。

愛菜まなか」

「なになに? 明日何かあるの⁈」

「いや・・ちょっと勘違いしただけだ」


 俺のことを兄と呼ぶが、愛菜は従兄弟いとこに当たる。

 お互いにひとりっ子で家も近かったから、幼い頃から兄妹みたいにすごした。俺の両親が他界してからは、心配なのかちょくちょく遊びに来るが、愛菜ももう高校3年生。


 そろそろ乙女としての自覚が出ても良いと思うのだが、どれだけ言っても一向に改善の気配が見えない。


 大学進学が推薦で決まってからは、勝手に俺の家で寝泊まりするし、風呂上がりに下着同然の姿でくつろいでいるのを見ると、さすがにモヤモヤする。

 従兄弟とは言え、年頃の女性が、男ひとりの家に上がり込むのはどうなのだろう。


「ふーん、まあいいや。ヨシ兄、夕飯食べた?」

「まだだけど」

「じゃあ、カレー持ってくね。美味しく作れたから」

「気遣いは嬉しいけど・・」

「もう着いたから切るね」


 通話が切れると同時に、玄関の鍵が開く音が聞こえる。合鍵を持っているのも善し悪しだな。

 しかもどうやら世の女性は、俺の話など聞いちゃくれないようだ。

 勝手に通話を切るし、勝手に話を進める。



 ため息交じりに一階のリビングまで降りると、セーラー服の上にエプロンを着けた愛菜が、鍋を手にニコニコと無言のプレッシャーをかけてきた。

 愛菜は色白でスレンダーな体躯に、日本人形のような黒髪ストレートで、清楚という言葉が似合う美少女だ。

 そんな女の子が、瞳孔開きっぱなしの瞳で見詰めてくる姿は、鬼気迫るものがある。


「ヨシ兄、あたしに話さなきゃいけないことがないかな?」


 長い付き合いだからわかるが、これはかなり怒っているときの態度だ。

 しかし心当たりが全くない。

 どうしたものかと、首をひねっていると。


「ねえ明日って、もしかして誰かさんとデートなの?」

 愛菜は持っていた鍋をキッチンのコンロにのせ、火をかけながら訪ねてくる。


「いや、そんなことは・・」

「今SNS登録見たら、アキって名前の友達増えてたね」


 SNSの友達登録、そんな事までわかるのか? 急いで情報公開を解除しなくちゃ。


「あれはゲームの知り合いで・・」

「知り合いって、ゲームで恋人宣言した人のこと?」


 愛菜は俺のゲームアバターを知ってたっけ。まさかあの配信を見ていたなんて。


「あれはノリというか、その場の空気を読んだというか」

「ふーん、そうなんだ」


 愛菜は振り返りもせず、火にかけた鍋をお玉でかき混ぜているが、カランコロンと乾いた妙な音がするし、カレーの臭いがまったくしない。


 気になったので愛菜の横に並んで鍋の中を覗き込むと、中は空だった。


「なんだこれ?」

「あっ! 慌てて出てきたせいで、カレーを忘れちゃった」


 愛菜が「ふふふ」と、口に手を当てて微笑む。

 ネタかな? だと良いんだけど。

 なまじ美少女がやると、ネタだとしても恐怖しか感じないから、やめてほしい。


「愛菜も夕飯まだだし、どうしよう」

 可愛らしく小首を傾げる愛菜の瞳孔は、まだ開いたままだ。俺の背筋に何か冷たいものが流れる。


「食べたいものはある?」

「じゃあ、子供の頃によくつくってくれた、ヨシ兄の手作りコロッケが食べたいな」


 そんなに作ったっけ? まあ、愛菜が言うのならそうなのだろう。

 ちょうどジャガイモは買ってきたばかりだし、材料は全部ある。コロッケなら得意だし。


「時間かかるけど大丈夫?」

 主婦の作りたくない家庭料理ナンバー1が、確か手作りコロッケだったような。

 手間がかかり、加減が難しく、その上評価が低いのが理由だとかで。


「まだお腹すいてないから大丈夫だよ。楽しみに待ってるね!」

 愛菜の瞳孔がやっと閉じ、嬉しそうに微笑んだ。


 ここで待つぐらいなら、カレー取りに帰った方が早いんじゃないかとか、そもそもなにしに来たのだろうかとか。そんな些細なことが吹っ飛ぶような笑顔を見せられては、しかたがない。



 とりあえずジャガイモの皮をむきながら、機嫌がなおりつつある愛菜に話しかける。


「俺もひとり暮らしに慣れてきたしさ。愛菜も年頃なんだから、そろそろ夜ひとりで訪ねてくるのは・・叔母さんも心配してるんじゃ・・」

 愛菜が手伝おうとしてくれたのだろう。包丁を手に、「ふふふ」と微笑む。


「心配しないで、ヨシにぃ。うちの親公認だから」

 なにがどの公認なのか不明だが、震える包丁が俺に向かっていることだけは確かだ。


「良くわかった。愛菜は疲れているみたいだから、お茶でも飲んで休んでいて」


 包丁をそっと取り上げ、愛菜をダイニングの椅子に座らせる。

 紅茶を淹れてテーブルにおくと、愛菜は屈託のない笑顔で。


「やっぱりヨシ兄、大好き!」

 と、嬉しそうに笑った。


 近所に住む叔母の結婚相手。愛菜の父親は再婚で、愛菜は叔母から見ると連れ子になり、俺とは直接の血縁がない。

 幼くして実の母と死別し、再婚した父に連れられ知らない土地に越してきた愛菜は、泣いてばかりいる子供だった。


 心配した俺の両親と叔母夫婦が、実の兄妹のように俺たちを育てたのは、きっと愛菜を心配してのことだ。


 俺も引っ込み思案の愛菜を守るべく、子供なりに頑張った記憶がある。

 おかげですっかり甘えん坊のお兄ちゃん子になってしまったが。


 美しく育った愛菜はクラスでも人気者のようで、叔母の話では、言い寄る男も多いらしい。

 いつかきっと兄離れして、好きな男と付き合うのだろうと思っていたが、手足ばかり伸びて、まだまだ子供心が抜けないようだ。


「こんなビッチのどこが良いのよ! こうなったら、あたしもグイグイ行くしかないのか?」

 紅茶を飲みながらスマホでアキの紹介ページを見て毒づき、何かを決意している愛菜の姿に、ため息がもれる。


 ふと「ヤンデレ」と言うワードが脳裏をよぎったが、それはあまりにも自意識過剰だろう。

 血が繋がらないとは言え、恋愛感情などあるはずもない。


 俺は妄想を振り払うように頭を振って、コロッケ作りに意識を没頭させた。





ちょっと閑話的なのですが、妹キャラは重要です!

ヤンデレもラブコメには欠かせません(僕個人の主張なので、異論はみとめます)

応援いただけると励みになります。


ストーリー? ちゃんと進みますよ。次話から、きっと・・。

どうかご安心ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらが僕の代表作になります!

異世界帰りの大賢者様はそれでもこっそり暮らしているつもりです

興味がありましたら、ぜひ!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ