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女王様のように

 ログアウトすると、待機ルームのメッセージボードに一件の新着があった。

 待機ルームでは自分のアイテムの整理やマップの確認以外したことがなかったから、メッセージボードのあつかいに四苦八苦しながら、なんとかメッセージを開く。


「オフで会えない?」

 送信先は『アキ』。簡潔なメッセージの下には、スマホでよく利用される交流用SNSの友達登録の案内状があった。


 少し悩んでから、そのデータをスマホに転送して、俺はVRギアをOFFにする。

 ボサボサの髪を手櫛でなぜ付け、眼鏡をかけてベッドから降りた。


 机にあるノートパソコンを立ち上げ、『ネクスワールド プレーヤー アキ』で検索すると、数々のサイトがヒットする。


 彼女はネクスワールドでスポンサーは付いていないものの、リアルでグラビアアイドル『姫野アキ』として活躍し、芸能事務所にも所属している。


 カルチャーゾーンではアイドル活動も行っていて、それなりに人気があったようだが、同じカルチャーゾーンで人気の男性アイドルとの恋愛疑惑で炎上し、バトルゾーンに移動。


 まとめサイトも幾つかあったが、本人は「ハメられた」と言っていたし、この手の噂なんて信じてないから、それ系は全部スルーした。


 問題はなぜ俺なんかに絡んできたのか。なにが目的なのかだ。


 ネットで公開されているプロフィールを見ると、現在19歳で、高校の頃からティーン向けのファッション誌のモデルとしてデビューし、TVドラマのちょい役などにも出演。グラドルとして人気が出だしてからは、深夜バラエティにも出演していたようだ。


 炎上をきっかけに、仕事がなくなるのを避けるため?

 それならバトルゾーンに移動して、起死回生のチャンスをつかもうとするのは、なんとなく理解出来るが、良いプランだとは思えない。


 元々バトル系ゲームが得意なら、その方法もアリかもしれないが、そうじゃなさそうだし・・そもそも芸能活動自体、それ程熱心にやっている印象を受けない。


 素人目から見ても、どの活動も中途半端な印象を受ける。


「悪巧みとは言え、どこか鬼気迫るものがあったんだよな」

 アキのあの、時折見せる意志の強い瞳が心から離れない。


 売れない芸能人。そう言ってしまえばそれまでだが、ネット上の画像を見ても、やはり一般人から見れば恐ろしいほどカワイイ。


 こんな子がクラスにいたら、きっとカースト最上位で、俺なんかとは会話すらしなかっただろう。


 最近発売されたグラドルとしてのイメージビデオや写真集の無料分を観覧しながら、実にけしからん二つの膨らみや生々しい太もも堪能していると、「ポーン」と、スマホから着信音が聞こえる。


 表示されたのは、先ほどデータ転送で友達登録された『アキ』だ。


 『今話せる?』のメッセージに、少し悩んでから『大丈夫』と返信すると、すぐにビデオ通話の着信が聞こえてきた。


 恐る恐るスマホに表示された受話器アイコンをタップすると、イメージビデオと同じ茶髪のセミロングの美少女が画面いっぱいに現れる。


「あはは! なにその顔」

 相手にも俺のアップが見えるのだろう、ビデオをオンのままで受信してしまったことを後悔した。


「切っていいか?」

「ごめんごめん、あー、そう来るとは思わなかったから」


 アキはケラケラ笑いながら、画面を覗き込むような仕草をした後。

「女殺しの正体がコレとは。でも間違いなく本人ね、腕の良いスタイリスト紹介してあげよっか」

 さらに楽しそうに笑い出した。


 身内以外の女子と話しするのは数年ぶりだったから、緊張していたが、おかげでどうでもよくなった。

 ある意味ありがとう。


「なんの用だ」

「つれないわね。全世界に向かって恋人宣言したばかりなのに」


 そんなつもりはなかったが、そうなってしまったのならしかたがない。


「目的はなんだったのかな? 協力できそうなことならするけど」

「話しが早くて助かるわ」


 アキはつまらなさそうにため息をつくと、一呼吸おいてからニヤリと悪そうな笑顔を浮かべた。


「助けてほしいのよ、もちろん取引として対価は支払うから」

「炎上の件なら他をあたってくれ、そっち系はうといというか・・たぶん向いてない」


 芸能関係は興味ないから知識が無いし、SNS系も苦手だ。と言うか、コミュニケーション全般が苦手だから、きっと力になれない。


「あー、それじゃないから安心して。芸能活動なんて、それ程力入れてないし、他にやりたいことがあるから、それの準備みたいなものだし」

「じゃあなんだ? 助けてほしいって、敵でもいるのか?」


 俺の質問に、アキは真面目な顔になる。

「良い質問ね、東藤 吉城よしき君」

「どうして俺の本名を・・」


「W大学工学部2年生、凄いじゃない、難関大学でしょ。現在二十歳で、住所は・・あら、以外と近所ね」

 驚いていると、アキは画面を覗き込みながら何かを確認するように「ふーん」と呟やいた。


「SNSのプロフに書いてあるわよ。友達登録でオープンになる設定だから、気になるなら解除しておいたら」

 そして、イタズラがバレた子供みたいに舌を出す。

 しまったな・・友達いないから、そんな設定気にもしてなかった。


「友達登録が3人しかいないから、偽アカかと疑ったけど。ごめんね、ただのボッチなんだ」

 俺の表情を確認しながら、アカウント情報の真偽を探っていたのだろう。


「悪かったな! ボッチと恋人宣言させてしまって」


 その友達登録の2件はソシャゲで、のこり1件は身内だ。

 凄いだろ、ボッチって。


「ちょっと想像と違ったけど、むしろ好都合かな。早速だけど明日の日曜日は空いてる?」


 大学が休みなら、することなどゲーム以外に無い。

 俺がどう答えようか悩んでいると。


「じゃあこのアドレスのカフェで朝8時、話しはそこで。遅れないでね!」

 そう言い残して、通話が突然切れる。

 チャット画面には、近所のカフェのアドレスが添付してあった。


 よく行く書店の近くだから、場所は知ってるけど。おしゃれ空間だから行きたくない。


 さてどうしたものかと、俺はスマホをベッドに放り投げ、大きく伸びをしてからノートパソコンを見た。

 先ほど視聴途中だったイメージビデオのサンプルの中で、女王様のようなドレスを着た姫野アキが、ムチを振り回しながら微笑んでいる。


 人の気も知らないで。・・いや、知ってていたぶってるのだろうか?

 業界ではご褒美だと言うし。



 さすがにそんな趣味はないが、俺は少し悩んでから、そのビデオのDL購入ボタンをそっと押した。

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異世界帰りの大賢者様はそれでもこっそり暮らしているつもりです

興味がありましたら、ぜひ!
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