ラブストーリーは炎上から
「ありがとう・・」
女性プレーヤーが立ち上がり、破られた衣装を気にしながらヨロヨロと俺に近づいてくる。
バトルドレスのスカートは割かれ、チラチラと白の下着が見え隠れしているし、胸当ての鎧も剥がされ、大きな二つの膨らみが今にもこぼれ落ちそうだ。
俺が視線を外しながら、
「こっちが不慣れなら、誰かとパーティー登録した方が良いよ。君のレベルなら引く手あまただろう」
なんとかそう言うと。
「あたしのこと知ってる? 炎上以来、避けられてて。ほら、バトルゾーンの有名クランが名指しでパーティー組むなって伝達したみたいだし。なかなか・・」
ふてくされながら、そう呟いた。
「いやあまり知らないんだ。俺ソロプレーヤーだから、どこのクランにもパーティーにも登録してなくて。その手の情報が入って来なくて」
そこまで話すと彼女は俺の頭上を見上げて、不思議そうに首をひねった。
「あなたかなりのハイプレーヤーじゃない。どこにも所属してないなんてありえな・・って、えっ⁈」
きっと初見で表示される『紹介ステイタス・ウインドウ』を見ているのだろう。
どうしたものかと悩んでいたら、彼女は突然俺の前に身体を滑り込ませ、真っ直ぐに俺の顔を覗き込んできた。
キラキラと光る大きな瞳と、幼さが残る可愛らしい顔がアップになる。
「ソロのハイプレーヤー、青い髪に切れ長の目のイケメン、炎の魔剣・・もしかして!」
そして突然、俺の顔を両手でつかんだ。あと数センチで唇と唇がくっつきそうなんですが。
「なんのことでしょう」
「あなた『女殺し』のヒューイでしょ‼」
やっと手を離したと思ったら、その女性プレーヤーは両手を胸の前で握りしめると、嬉しそうにぴょんぴょんと跳ね出した。
くるくるカールのセミロングな金髪も跳ね、ボヨンボヨンと揺れる二つの膨らみが凄いことになっている。破れた短いスカートからは、ばっちり下着も見えている。
白だと思っていたが、白とブルーの縞パンだったのは、ポイントが高い。
「カルチャーゾーンでハメられて炎上してからツキがなかったけど、ここに来て大逆転のチャンスだわ」
小声で怖いこと言ってるのも、違う意味でポイントが高い。
かなりできる女だ。
「確かに俺はヒューイだけど」
喜びポイントはどこなのだろう?
「あなたの実力と知名度があれば、なんとかなるかも!」
やっぱり・・この手のご要望で、何かが上手くいったためしがない。
俺が逃げだそうと一歩後ろに下がると、半裸の女性プレーヤーは突然抱きついてきた。
ムニッと柔らかな弾力が俺の胸に当たり、ニヤニヤと楽しそうに微笑む美少女の顔がアップになる。
「ああ! 助けていただきありがとうございます・・」
芝居じみたセリフで、涙をためながら俺の顔を見上げる女性プレーヤーは、さっきまでとは別人のようだ。
あたふたする俺に、彼女が小声で呟く。
「ライブ配信をONにしたから、何か言って!」
さっきオークを切ったとき、協力プレイと認識されたせいか、俺と女性プレーヤーは仮パーティー登録されていた。この状態では俺から配信をOFFにできないし、逃げ出すこともできない。
くそっ、狙ってやってやがるな!
「何かって・・」
小声で聞き返すと。
「あたしのフォロワー数は500万超えよ。炎上したくなかったら、王子様を演じなさい」
どこか楽しそうに、耳元でささやいてきた。
双方のフォロワーが気付いたのだろう、周囲にコメント・エフェクトが飛び交いはじめる。
『あれ? アキ姫なに抱き合ってるんだ?』
『ヒューイ様いったいなにが・・』
『女殺しがなにかまたやらかしてるのか⁈』
コメントを見て・・今思い出したけど、この娘の登録名は『アキ』だ。
『アキ姫・・エロっ! 見えそうじゃん』
刺激的な女性プレーヤー『アキ』の姿に突っ込むコメントが数件あらわれると、つられるように視聴者数も跳ね上がりはじめた。
それを意識してか、アキは俺に抱きつきながら、扇情的なポーズで挑発する。
『ヒューイ様から離れろ、このメス豚!』
『そのまま押し倒せ! 運営なんか気にするな、男を見せろ‼』
なんかコメントがヒートアップしてるし、ボヨンとかムチムチとか、いろいろな感触がデバイスを通じて、俺の脳を刺激していたたまれない。
「怪我がなくて安心したよ、じゃあ俺はこれで・・」
強引にアキを身体から剥ぎ取り、俺はひきつった作り笑顔を向ける。
するとアキはすねたように唇を尖らせた後、自分のアイテムボックスを出し、中からキラキラ光る指輪を取りだした。
このゲームには、エンゲージと呼ばれる機能がある。
特定のプレーヤーと一対一でのみ、一部の能力共有を許可するものだ。
能力アップアイテムとしては強力なものではないが、お互いの連絡や、連携には絶対的な力がある。そのため恋人同士のプレーヤーなどに重宝されるアイテム。
別名ステディリングが、アキの手の中で輝いていた。
「これを受け取ってほしいの」
しおらしく指輪を差し出すアキ。
俺がとまどっていると、また耳元でアキがささやいてきた。
「逃がさないから」
思わずアキの顔を見詰めると、そこには意志の強い・・引き込まれるような瞳がある。
あざといとか計算とか言われる女の真の魅力って、わかっていても引かれてしまう、この美しいほどのしたたかさかもしれない。
ここまであからさまに狙われると、逆にすがすがしい。
今まで上手くいかなかったが、今回はなんとかなるんじゃないかと期待してしまう。
フォロワー・コメントは既にカオス状態で、ここで逃げても指輪を受け取っても、行く先は地獄しかなさそうだ。
毒を食らわば皿まで。きっとオークに襲われていた彼女を救った時点で、既に俺は沼に飛び込んでいたのだろう。
なら覚悟を決めるだけだ。
こんな表情を見せられたら、欺されるのも男の甲斐性だとあきらめるしかない。
「火傷しても知らないぜ」
コミ症ボッチ童貞に、こんなもの渡したことを、後悔するがいい。
指輪を受け取ると、エンゲージが成立したファンファーレが鳴り、空中に表示されたフォロワー・コメントに、怨嗟の叫びが乱舞する。
俺の言葉に、アキは一瞬驚いたように目を丸くしたが、気を取り直すと楽しそうに微笑む。
顔が近すぎるから、早く離れてほしい。
「じゃあ、連絡待ってる」
アキはそう言い残すとヒラヒラと手を振って、先にログアウトした。
エンゲージ登録すると、自動的にフレンドもされ、オフでも連絡交換ができたんだっけ。さて、どうしたものか・・。
空中で荒れるフォロワー・コメントを眺めながら、視聴者に気取られないようクールな笑みを浮かべ、俺は心の中で冷や汗を流しながらログアウトした。
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