キャンセルボタンが見当たらない
目的はダンジョンボスのドラゴンから玉葱を奪うことだから、ミゾレの参加はありがたい。俺ひとりでも最深部まで行く自信はあるが、消耗しきった状態でボス戦は無理だと踏んでいた。
やはりシーフがいると、ダンジョン探索はグッと楽になる。しかも運営が配布する公式資料によれば、ダンジョンボスはS級モンスター。
アキと組んでもペアプレイが上手く行かなきゃ不可能だし、持久戦覚悟で最低でも数週刊はかかると考えていた。
何度もこまめにセーブし、ログアウトとログインを繰り返して、相手のMPを削ってゆく消耗戦は好きじゃないが、他に方法が見当たらない。
だが敏腕シーフのミゾレが参加してくれるなら、時間もグッと短縮できるだろう。パーティー連携さえ上手く行けば、ラスボス戦も一発勝負も可能だ。
A級の俺に、バトル初心者だがB級上位のアキ。それに同じB級上位のミゾレが加われば、パーティー総力はS級に匹敵する。
ミゾレと以前組んだときには、連係プレイは上手くいっていた。だからこっちは大丈夫だろう。問題は・・。
目的のダンジョンに向かって、意気揚々と俺の前方を歩くアキに話しかける。
「アキはジョブチェンジした方が良いと思うんだが」
俺の言葉に隣にいたミゾレがコクコクと頷く。
「魔法剣士ってカッコよくない? 華があって」
アキは振り返りながら、不服そうに唇を尖らせた。魔法剣士はバカみたいに能力を消費するジョブで、スキルバランスの取り方も難しいから、登録者も少ない。しかし決まれば無敵だし、その派手さから人気ジョブでもある。
ゲームになれればアキには向いているかもしれないが。習得には時間がかかるし、やはりお勧めはできない。
他に向いているジョブがあるわけだし。
「パーティーのバランスもあるし、回復系のジョブとかどうだろう? 適性もありそうだし」
なんとか説得しようとすると、
「僧侶とか神聖系って嫌いなのよ、媚びてる感じがするし。なによりあのコスチュームが」
取り付く島もなかった。
ミゾレもなぜか横でコクコク頷いている。
「あんたがどうしてもって言うなら、考えるけど・・あたしにあの手の服って、似合うかな?」
アキが身体のラインが出るピッチリとした、スリットの入った僧侶服を着ているのを想像してみた。
色っぽいとは思うが、なにかが違うような気が・・主にボリュームとか邪悪さとか。儚さとか清楚さとか、僧侶とか神聖系には必要なのかもしれない。いやダーク系ならいけるかも。それか暴力系とか。
悩み込んでいたら、隣を歩いていたミゾレが俺をジト目で見上げている。言いたいことがあるなら言ってくれ。
「それじゃあ支援系の魔法職は?」
「うーん、僧侶とかよりマシそうだし。バランスを考えるとそんなところか」
僧侶になにか恨みでもあるのか?
「特性を活かして攻撃系より補助系の魔法スキルを取得してほしい。味方の攻撃力アップとか、防御力アップとか。あと敵の戦力ダウン系は合うと思うよ、性格的にも」
「どう言う意味よ!」
的確な助言なのに、睨まれてしまった。
「カルチャーゾーンで活躍できる人って、操作系が合うんだ。人の心を動かす魅力があるからかな? アキには適任だと思うけど・・」
追加で助言すると、渋々といった感じで頷く。
人間関係って、やっぱ難しい。
「じゃあジョブチェンジするから、お勧めの装備を教えて!」
「さっき全権共有したから、直接ステイタス変更できるけど」
「そお? なら早速お願い」
承諾を得たので、アキのステイタスウインドウを開く。
スキルポイントが沢山空いているし、なにより基礎能力がべらぼうに高い。
味方の支援魔法や敵戦力ダウンを狙える補助魔法を中心にスキルを取得して。
「剣士系のアイテムや装備はパージしても良い?」
次は装備だが・・。
「任せるけど」
補助系の魔道士スタイルの一覧を開いてみたが、今ひとつどれが良いかわからない。
装備一覧をオープンして、隣にいたミゾレにも意見を求める。
「攻撃は基本しないから、スピードやパワーをアップする必要性がなくて、防御力が高くて、魔術補正が高いのだと・・」
ミゾレが、一覧にあらわれたコスチュームの一つを無言で指さす。
俺がそれを選択したら、
「なにこれ!」
上下ピンクのジャージ姿に変わったアキが怒鳴った。
条件をクリアしているし、胸に貼り付けられた大きな名札がなかなかキュートだが。
「こんなんじゃフォロワー減るでしょ。ライブ配信中は応援やビュー数も加点されるんだから、少しは考えてよ」
そうかな? マニアにはウケると思うのだが。
「じゃあこれなんかどうだろう?」
多少は露出度が必要ってことか。以前そんな話も聞いたしな。
熟考の末、ちょっと動きにくそうだが、フォロワー数稼げそうで『魅了』や『嗜虐』の補正も高いコスチュームをセレクトする。
「ちょ、ちょっと、ばっ、ばか!」
革ベルトとチェーンで身を覆ったアキが、慌てて手で身体を隠した。
色っぽいが・・なんだかボンレスハムを想像してしまう。
どうやら選択を誤ったようだ。
「コスチュームはあたしが選ぶ」
元のバトルドレスに戻ったアキがぷんすかしながら操作ウインドの前に立った。
ちなみに俺はアキに腹パンされ、ミゾレに倒れたところを踏みにじられた。
イヤだから、今時暴力ヒロインは・・。
「魔法職なら、これかなあ」
アキが選んだのは、魔法少女のような衣装。ヒラヒラのフリルも、手にした魔法ステッキも、マニアックで素晴らしい。
短すぎるスカートの下のムチムチの太ももと、それを締め付けるニーソ。強引に収められた胸の膨らみは、今にも破裂しそうだ。これなら多くのフォロワーを魅了するだろう。
俺が感心していると、
「年増には痛すぎる」
と、アキがボソリと呟く。
いやいや、この痛さが狙いなのでは?
助言しようとしたら、二人が無言で睨み合っていた。バチバチとなにかが飛び交ってるし。
うーん、仲良くしてくれると嬉しいのだが。
それからアキは数回コスチュームをチェンジしたが、結局元のバトルドレスに魔法使い用のローブを羽織り、剣の代わりに大きな杖を装備することでおさまった。
まだダンジョンに入っていないのに、やたらなにかが消耗したような気がしてならない。
☆ ☆ ☆
俺はダンジョンに入る前に、自分の装備を点検する。冒険者の基本だ。
俺の横で、手慣れた感じで装備点検を始めたミゾレを見ながら、真似るようにアキも自分の装備の見直しをはじめた。
「ミゾレ、俺たちとパーティー登録するか?」
「お願い」
同行にパーティー登録は必須じゃないが、ある程度の情報共有や協力プレイの相乗効果が見込めるから、メリットは大きい。
しかし獲得ポイントは無条件で分配される。
念の為アキを見ると、ニコリと微笑む。
「初めからそのつもりよ」
そして二人はハイタッチした。
こいつら仲が良いのか悪いのか良くわからない。利害の一致とか言ってたけど・・。まあ、あとでどちらかに、それとなく聞いてみるか。
操作ウインドを開いて、アキとミゾレをパーティー登録したら、目の前が一瞬暗くなる。
光が戻ってから周囲を見回すと、アキもミゾレも動きを止めている。
いや・・周囲全体が時間停止したように動いていない。
ネットカフェで借りたVRギアのトラブルかと思い、強制イジェクトボタンを探すが、見つからない。
やがて全てが青く染まり、大量のプログラムコードが降ってきた。
パソコンのブルースクリーンみたいだ。
「デバッグ・モードに入りました」
聞き慣れない機械的な音声が響く。
「修正パッチ『ギャルゲーム』を適応中」
続いてそんな音声が脳内に響く。
「対象プレーヤー名『ヒューイ』、パッチ適応成功。これより、強制ギャルゲ・モードに移行します」
脳をひっかき回すような苦痛と酩酊感が俺を襲い、意識が途切れかける。
止まっていた周囲が動き出したが、上手く力が入らない。
「どうしたの? 大丈夫⁈」
アキが倒れかけた俺を抱き留めてくれる。
「ああ、いや。今のいったい」
まだふらつく頭を支えながら、アキの顔を見ると・・その頭上には、ピンク色の可愛らしいウインドが浮かんでいて。
『攻略対象:アキ』
好感度:実質30 そぶり80
関係性:利用相手
獲得フラグ:『エンゲージ』『リアルの恋人(仮)』
<選択肢>
A:このまま欺されてダンジョンに入る (危険度 高)
B:先にログアウトして逃げる (危険度 中)
C:ミゾレと二人で逃げる (危険度 低)
・・そんな記述がされていた。
慌てて駆け寄ってきたミゾレが、無言で心配そうに俺の顔を覗き込む。
やはりミゾレの頭上にも妙なウインドが浮かんでいて。
『攻略対象:ミゾレ』
好感度:実質100 そぶり20
関係性:粘着相手
獲得フラグ:『自称アンドロイドの告白』『リアルストーカー』
<選択肢>
A:アキをおいて二人で逃げる (ラブラブ度 低)
B:この場で押し倒す (ラブラブ度 中)
C:リアルで結婚する (ラブラブ度 高)
そんな表示が!
ついでに『選択:アキルート/ミゾレルート』などというウインドもポップしていた。
うん、これ壊れたな。システムか俺の脳みそが・・。
キャンセルボタンを探したが、どこにも見当たらない。
しかたなく俺は青すぎる空を見上げながら、小さくため息をついた。




