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理解るように、言ってくれ。

ようやくネタバレ説明回までたどりつきました。

(しばらく続きますけど)


 では、朝霞逸人の異世界冒険談を語ろうか。


 いきなり、異世界に召喚されました。

 がんばって、レベルをあげて魔王を倒しました。

 めでたく、秘術で日本に帰還しました。


 ──完。


 え?異世界なめんなって?

 いやいやいや。これぞ、王道でしょ。

 いまどきのAIに「三行で要約して」とプロンプトすれば、きっとこんな感じになるはず。

 知らんけど。


「その秘術を使えば、元の世界に帰れるんですか」


 ほら。アルマさんはちゃんと納得してくれてる。えらいよね。


 まあ、おれが異世界帰還者だと告げたときのリアクションも、まっさきに「帰る方法があるんですか!?」だったしね。


 夜の公園で大声を出されると、さすがに不審者として通報されそうなので、おれたちはひとまず家に戻った。

 もう午後9時をまわっているけど、アルマ絶対主義な箱崎さんが、そのアルマの世話を途中で放りだすほど秘書として急な仕事が入ったのなら、おそらく親父は午前さまだろう。

 なので、いまはリビングに舞台をうつしている。


「ごめん。その答えは『わからない』としか言えないんだ」

「でも、逸人さ……逸人は、帰ってこれたんですよね」

「慣れるまで無理しなくていいよ。こっちでは敬称つきが普通なんだし」

「いえ、がんばります」


 がんばるのか。うん、応援するよ。


「そもそも異世界転移というのは、どんな原理や理屈だと思う?」

「わたしには、わかりません……」


 かつて異世界で、転移の仕組みをおれに説明してくれたやつがいる。

 彼によると「多次元宇宙の次元干渉事象」なのだそうだ。


 無限に存在するバブル宇宙の膜、つまりブレーン同士の交差による現象が転移らしい。発端となったのは15年前、異世界でおこなわれた「召喚」だった。この魔法が、交差した地球側に「干渉孔」を開けてしまったらしいのだ。これが「ポテンシャル井戸」となって、他の隣接宇宙とも干渉確率を増大させているらしい。


 さあ理解したかな?おれは理解できてない。


 異世界からの帰還後に、図書館やネットでさんざん調べて多少の知識は得た。けれど、量子力学だの、超弦理論だの、シュレディンガー方程式だの、わかるわけがない。


まあ2枚の紙、AとBがあったとして、こいつらはずっと付かず離れずの関係を保っていた。ところがあるとき、Aが強引にBを引き寄せる。そのせいでBが破れ、2枚どころかさらに多くの紙を引き寄せる穴が空いた。せいぜいが、そんなイメージだ。


 さらに、この異世界転移には、やばすぎることが2つある。


 ひとつは、転移が宇宙間における質量エネルギーの等価交換であるということ。


 つまり地球における異世界転移者とは、異世界側が地球人を召喚したことによる補填だというのだ。地球のだれかが召喚されるたび、異世界のだれかが交換のように転移させられていく……。いわばランダムな生贄だ。こちらへの転移者の厳密な総数は不明だが、15年間で1,000人単位には上っているし、今後も増え続けるだろう。


 もうひとつは、さらにスケールが大きい。この干渉孔を放置すると、交差程度ではとどまらず、いつか宇宙的貫通を招く可能性があるらしい。


 地球側の交差面はなぜか、最初の異世界転移者が現れた地点から半径600kmぐらいに固定されているらしい。これが日本にしか転移者の現れない理由なのだが、この面を通じていくつもの宇宙が連鎖的に崩壊するかもしれないというのだ。


 説明者は、繰り返される悲劇と、訪れるかもしれない惨劇を回避しようとしていた。異世界での召喚を止めさせようと、懸命に戦っていた。そして、この情報を地球側に持ち帰らせるため、おれに召喚ならぬ「送還」をもちかけたのだ。


 しかし、おれは最初それを拒否した。


 理由は、転移が等価交換であること。

 おれが帰還するということは、地球からまただれかが異世界に転移されることを意味するのだから。

 異世界では、すでに5年を過ごしていた。決して過酷な経験ばかりではなかったし、日本で過ごすよりもある意味で充実した日々だったかもしれない。

 かといって、だれかを合意もなく故郷から引き離すような行為は選べない。


 すると彼は、別の方法を提案してくれた。

 残存する量子履歴を利用して異世界転移しなかったおれを再構成。そこに、こちらから質量エネルギーとしてではなく「情報」として、差分を書き加えるというのだ。

 ただし、こちらでの記憶や経験は、直接経験したもの、しかも魂レベルで結びついたよほど強度の高いものしか転送できない。こちらに来て身につけた技術、スキルや魔法なども、地球での身体に応じたレベル、つまり1に限定されると。


 おれは、それを受け入れた。


「だからさ、いまのおれは帰還者といっても出殻(でがらし)なんだよ。たいした能力なんてない。あいつが使った方法を再現するすべを持たないんだ」

「でも、まったくの不可能ではないんですよね!?」


 これには正直、意外だった。

 この話をするとアルマは、間違いなく絶望すると思っていたのだ。

 帰る方法はあるかもしれない。けれど、それを実現することができない。

 なまじ期待を抱かせたあとだと、失意の深さはどれほどになるかと。


 けれど、彼女は違った。

 それを希望ととらえたのだ。


「いやいや。再現する手がかりなんてほとんどないし。そもそも、あれはとうていレベル1で扱える魔力ではなかったんだ」

「かまいません。父や、母や、妹や、弟にもういちど会えるなら、何年かかってもあきらめません。だから、だから、逸人の力を貸してください」


 いままでに見たことのないほど強い意思をたたえた瞳。

 頬はすっかり紅潮しているし、拳は痛そうなほど握りしめられている。

 すべては、その希望が新たな勇気をもたらした証拠だった。


「……わかったよ。おれが異世界から帰還するとき、ある願いを託された。それをかなえるための方法を探すなかで、アルマの送還する機会もあるかもしれない。それで良いなら協力するよ」

「ありがとうございます!わたしにも、できることがあるなら、なんでもします!」


 いま、なんでもと言いましたね。

 アルマにはもちろん、やってほしいこと、やるべきことがたくさんある。

 そう。まずは剣聖としての能力を見極めるあたりから。


「そういえば、わたしたちの世界で、逸人もジョブを与えられたのですか?」

「ああ、召喚者はみな召喚時点でジョブ鑑定されるしね」


 アルマに、成人の儀など関係ないと断言したのはこれが理由だ。

 鑑定なんて手段が有効なのだから、授与されるのではなく、判明しただけと考えるのがとうぜんだろう。


「なんのジョブだったか聞いても良いですか?」

「スカウトだよ」

「……スカウト、斥候ですか」


 いまアルマさん、ちょっと微妙な表情になりませんでした?


 あのときおれを鑑定した神官ほどではないとしても。

 いちおうユニークジョブらしいんですけどね……。

 とはいえゲームとかだとシーフなんかに近い立ち位置だろうな。戦闘では攻撃力がほどほどで、機敏さと手数で勝負する。覚える魔法も探索系と妨害系がメインだ。


 ただ、スカウトというジョブには、まだ他の特長があるにはある。

 それに気づけたのは、自慢ではないが英語が苦手だったからだ。

 「あなたの天職はスカウトです」と告げられたとき「アイドルかスポーツ選手でも見つけてこいと?」と悩んだからなあ。


 探すこと。見つけること。その意味を、たんに偵察という風にはとらえなかったのだ。


「おれがいま使えるジョブとしての特性やスキルについては、また説明するよ。それとアルマには、もっと剣聖としての力に目覚めてもらわないと」

「そんなことができるんですか」

「ああ。それが、おれのスカウトとしての最大の能力でもあるからね」


 夜も更けてきたけど、ちょっとコーヒーでも淹れようかとおれは腰を上げる。

 その背後から、アルマが尋ねてきた。


「けれど、それほどの知識があって、ものすごい術も使えた人がわたしの世界にいたんですね」

「ああ、ちょっと変わってるけど良いやつだったよ」

「いったい、だれなんですか?」

「うん?魔王だよ」


 そう。おれの倒した魔王が、最後の力でおれを帰還させたというわけだ。

 王道でしょう?




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