ジョブと性格は関係ない!はず。
キャラクター同士の間合いとか、位置関係とか。イメージ通りに書くのが難しいので、戦闘描写はどうも時間がかかります。という愚痴。
かつて、異世界に転移させられたとき。いわゆるRPGゲームと、もっとも違ったのは「レベル」だった。
たしかにレベルの概念はあった。けれど、それを確認するのは難しい。
ステータス画面なんて便利機能はなく、アップ時のファンファーレもないのだから当然だ。
では、どうやって、レベルアップがわかるのか?
答えは「いままでできなかったことが、できるようになる」ということ。
ただ、それだけ。
では、どうすれば、レベルアップをできるのか?
これは「いまできることを、ひたすらくりかえす」ということ。
これに、尽きる。
そもそも、考えてみてほしい。
たとえば農民というジョブが、モンスターを倒さないとレベルアップできない。これはあまりに理不尽じゃないか?
商人は、商人の。職人は、職人の。それぞれのスキルや魔法を使っていけば、いつかレベルはあがる。
要は、ジョブとしての熟練度が、レベルなのだろう。
──いま、魔獣の胸元で光りだす金色の立髪。そこから射出される魔刃。
絶望的な脅威が眼前に迫る状況で、おれはこの仮説が正しいことをあらためて確信した。
もはや避けられない凄惨な未来。
その絶望の予感を打ち消すように、いきなり、おれとアルマは、とてもあたたかな光に包まれた。
そしておれは、心のなかで呟く。
(レベルアップおめでとう、ティル姉)
今日だけでも、彼女は相当な治癒魔法を使用したのだ。ゆえに、そろそろレベルアップがあってもおかしくないと思っていた。
いま、おれたちの身体を包んでいる光は、きっとディスタント・ヒール。遠隔での治癒魔法だろう。
とても淡い期待だった。
万一、おれたちが危機に陥ったとき。ティル姉が、その現場を見ていれば、神官としての新たな可能性に目覚めてくれるのではないかと。
(傷は負うけど。治癒されるまでの時間さえ耐えれば、まだ戦える)
覚悟を決め、襲ってくる衝撃と激痛に耐えようと、身体に力を入れる。
しかし、その瞬間。全身を貫くはずだった無数の魔刃が、すべて眼前で消失した。
え?
なんで?
まとった光の向こうでは、キラキラとした粒子が舞っている。
どうやら魔刃がすべて、たんなる魔素に分解されたようだ。
アルマの方を確認しても、やはりおなじ現象が起きたようで、ただキョトンとした顔をしている。
(……これって、ブレスか)
ディスタント・ヒールかと思った光は、どうやら聖域魔法のブレスだったらしい。
悪意や敵意のある魔力干渉の無効化。
聖域魔法としては初級だが、属性のない単純な魔力攻撃になら効果は絶大だ。
「治療より予防がだいじということか。最高だよ、ティル姉!」
前足や長い鼻面を、自ら放った魔刃で痛めつけた魔獣は、激しく苦悶の表情をたたえている。そんな自傷覚悟の攻撃を、いともかんたんに無効化されたことで、憎悪の感情まで加わっている。
畳み掛けるなら、このタイミングだ。
もういちど、さっきの合わせ技で削るか。
そう考えていたとき、アルマが駆け寄ってきた。
「ハルト!」
「どうした?アルマ」
なにやら妙に興奮した様子の彼女を、魔獣から匿うようにして返答する。
「わたし、わたし。できちゃいそうなんです」
うん。こんなときに。いきなり。なにを、いっているのかな?
彼女は、ときおり言語能力が著しく減少する。
テンパると、とたんに報連相がおろそかになるタイプだ。
そんなことでは将来が心配だぞ。
「できちゃいそうって……。もしかして、なにか閃いたのか」
「はい。さっきの光に包まれたとき、急に頭にスペルが浮かんできて」
「スペル、ということは魔法か」
おそらくアルマも、レベルアップのタイミングだったのだろう。
ただ、剣士系のジョブが使える魔法となると、たいした威力は期待できない。とはいえ牽制には使えるだろう。
「わかった。おれが相手の動きを抑える間に、アルマはその魔法を試してみてくれ」
「はい!」
彼女の返答とともに、おれはいまも苦悶する魔獣から、あえて注意を引くように走り出す。
(放出系は苦手なんだがな)
おれも、この戦闘中に再習得していた魔法のスペルを唱えはじめる。
アルマは「頭にスペルが浮かんだ」と言ったが、おれの場合は、リストのグレー部分がはっきりとした黒文字になった感じだ。
「グラビティ・ボール」
発動とともに、魔獣の足元に黒い小さな球体が発生する。
重力球。
周囲に極端な荷重を与える魔法だ。効果は距離によって減衰するが、近辺に居ると体重が倍になったような感覚に陥る。
ほんと。スカウトってのは、こうした嫌がらせばかりが得意なんだよ。
異世界時代には「性格悪い」などと、言われもしたが。
いや、ジョブの問題だからね?違うからね?
いきなり増加した自重で、ろくに動けなくなった魔獣。その状態を確認してから、アルマの方に視線を移した。
両手を胸の前で組み合わせるようにして、彼女はまだスペルを唱えている。
まだまだジョブとしては初期レベルの段階だから、そこまで長い詠唱魔法を覚えるとは思えない。おそらくスペル詠唱そのものに慣れていないせいで、手間取っているのだろう。
……行動阻害系を選択してよかった。
そう思った瞬間、とつぜんアルマの周辺に膨大な魔素が集中しはじめる。
(成功したか)
安堵したのも束の間、その魔素の集まり具合が尋常ではないことに気づく。
おいおい……。
いったい、どれほどの魔素を必要とするスペルなんだ。
まてまてまて!
これが攻撃魔法なら、災害級の効果をもたらすようなスケールだぞ。
冷や汗を流す、おれの視線の先。すでに視認できるほど濃密化した粒子たち。
それはやがてアルマの身体を渦巻くようにして、組み合わせた両手へと凝縮していく。
集中状態で目を閉じたままの彼女は、片腕だけをゆっくりと前に突き出し、そのまま天へと向け……。
光が、爆発した。
白昼かと思うほど、煌々と照らし出される辺り一帯の風景。
その只中に、ただまっすぐと佇むアルマ。
掲げられた手には、一本の剣が握られていた。
眩い光が霧散した後も、なお青白い輝きをたたえた刀身。
その全長はアルマの身長の半分近くもあり、いわゆるブロードソードだ。
遠目では判明しないが、両刃の内側には、なにやら複雑な紋様も刻み込まれている。
(聖剣……)
確信はないが、ただそのワードが脳裏に浮かぶ。
剣聖と聖剣。
意味のない、ただのアナグラム。しかし、その両者に深い関係があることを認識せざるをえない。それだけの信憑性が、いま目の前で一本の剣を掲げるアルマの姿にはあった。
「ハヤト!」
しばし見惚れてしまったおれに、アルマが大声で呼びかけてくる。
そうだ。あれが聖剣かどうかなんて、気にしている場合ではない。少なくとも、剣聖が、念願だった剣を手に入れたのだ。
ならば、やはりここは畳み掛けるだけだ。
「いくぞ、アルマ」
「はい!」
体力、気力、魔力。すべてを全力で振り絞り、一気に駆け出す。
ちょうど重力球の効果が切れて、魔獣の方も従来の動きを取り戻す。
新たな武器を得たアルマを警戒したのか、標的は彼女の方に向けられている。
もういちどグラビティ・ボールを放とうかとも思ったが、剣の間合いに入るとアルマにまで影響が及んでしまう。
ならば、ここは正攻法だ。
魔獣の周囲を回り込むようにして、やつの横顔にバレットを連打する。
もう魔素の欠乏なんて心配している場合じゃない。
コントローラーの連射ボタンを押しっぱなしの気分で射ち込む。
グルルルォォ!
おそらく「うるさい!」とでも言っているのだろう。魔獣が低くうめきながら、ようやくこちらを睨んだ。そのまま跳躍して、前足のブレードで斬りつけてくる。
寸出のところで、後ろにバックステップしてかわす。やつはそのまま前足を軸にして器用に身体をひねり、着地を狙うようにして尻尾を振り回してきた。
もう、あえて避けはしない。ティル姉のブレスと、あわせて展開した魔法障壁を信じ、左腕でガードするように束ねられた魔力の刃を受け止める。
それでも、単に物理的な慣性力は耐えられなかった。身体が横薙ぎにされ、もののみごとに吹き飛ばされる。
「いまだ、アルマ!」
尻尾を振り切ったばかりの魔獣は、足を止めている。横腹を、無防備にさらしている。
なんとか身を挺してつくりだしたこの隙を、きっとアルマなら見逃しはしない。
その期待通りに、剣を振りかぶったまま、彼女は一瞬で距離を詰める。
(そうだ。もうスキルだとか、小細工とかはいらない……)
剣聖が、それに見合う剣を手にしたのだ。
(ただただ、無心で振り抜け)
地面を転がりつつ見た最後の瞬間は、とても美しい剣筋が描いた一筋の軌跡。
そして──、腹部から壮絶に血を吹き出しながら倒れ込んでいく魔獣の姿だった。
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