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七転八倒と七転八起。じつは大差ないよね。

かなり勢いで書いてるので、推敲不足が心配。次回は数日開くかもしれません。


 5年間の異世界生活。さまざまな国や地方を冒険したなかで、数多くの生物に出会ってきた。

 昆虫や爬虫類には、驚くような外観あるいは生態を持つものが多い。しかし哺乳類、とくに4足歩行の動物は、なぜか地球と似たりよったりだった。ネズミやウサギといった小型種。犬や猫といった中型種。熊や狼といった大型種。すべて存在していたのだ。


 決定的に違うのは、魔獣と魔物の存在だった。


 どこが違うのか。それは、魔法やスキルを使うことだ。

 おそらく地球とおなじような進化をたどりつつ、生存戦略として魔力の利用に目覚めたのだろう。そのなかで、既存の分類科目に近いグループが魔獣で、まったく異なる突然変異的な個体が魔物と呼ばれていた。


 いずれにせよ、この地球の生態系においては存在するはずがない生物だ。

 もし存在するとなれば、その理由はただひとつだろう……。


 考えたくもない可能性を振り払うように、おれは気配探知に集中する。

 こっそりと廃村を出て、裏山の森林に立ち入ってからおよそ30分。

 ようやく、ひとつの弱々しい気配を見つけた。


 「……いたぞ。あっちだ」


 身体強化で夜目の利くおれとアルマが、前後からティル姉を挟むようにして獣道を進行する。

 直線距離を最短で進むには危険すぎるので、地形を考えながら少し回り込むようにして目的地に向かう。

 そして斜面の下に一人の男性を発見した。

 三峰のスタッフが着ていたものとおなじ作業服なので間違いないだろう。


「おれが様子を見てくるので、二人はここで待っていてくれ」


 草むらに覆われた足場を慎重に確認しながら、おれは斜面を駆け下りる。

 渓流の岩場がつくりだす窪みに、彼は横向きで倒れ込んでいた。

 苦しげな表情ながら息はしていることから、おれは大きく安堵する。

 あらためて確認すると、背中に大きな三本線の裂傷があった。

 あと、手が右足を押さえていることから、動けないような怪我をしているのだろう。

 このまま運んで良いのかどうかの判断が難しいため、いちど二人のところに戻る。


「大きな怪我をしているけれど、まだ息はあるようだ」

「よかった……」

「ならすぐに治療をしないと」


 斜面を下るため、まずはアルマにティル姉を背負ってもらう。


「先導するから、アルマはしっかりと、足場をたどってきてくれ」

「わかりました」


 さらに慎重に斜面を下り、ふたたび男性のもとに戻ってきた。

 ティル姉が、あらためて様子を確認する。


「具合は、どう?」

「背中の傷は深いけど、幸いにも骨や血管は無事よ。いったい何で切られたのかしら。あとは、右足の腓骨骨折ね。全身に打撲があるから、かなりの衝撃で斜面を転がったんじゃないかしら。よく無事だったわね」


 たぶん、とっさに身体強化を使ったのだろう。

 身体強化というのはジョブにかかわらず、だれもが持っているスキルだ。ただし、ジョブによって強化される部位や能力が変わる。

 農民ならば、筋肉や骨が強化されるはず。おかげで、害獣から集落を自衛する程度の強さは得られるし、まれに冒険者としてタンク役をこなしている元農民だっていた。


「治癒魔法で治せそうかな?」

「背中の裂傷は、一刻もはやく治癒したいわね。傷口が開いてまた出血したら危ないわ。ただ、骨折についてはレントゲンを見てみないと。もしも変な形で癒合したら後遺症が残る可能性だって……」


 ──そんな会話をしていたとき、おれの全身が総毛立った。


 強烈な危機感が、全身の神経細胞を叩き起こす。

 瞬時に立ち上がり、暴風のような気配を叩きつけてくる方向に向き直る。

 おれたちの降りてきた方とは逆側の斜面。その高みから、鋭く見下ろす双眸と目があった。


 なぜ、この距離まで気づかなかった。

 その疑問への答えは簡単だ。相手が、気配を遮断しながら近づいていたからだ。

 つまり、相手の方が魔力操作の面で「格上」だということに他ならない。


 逞しい体躯を、すらりと長い四肢で支えて立つフォルムは、異世界で見たブレードウルフに酷似している。しかし、そのサイズは倍近くも大きいだろう。

 なにより、額から背中へ、そして胸元まで伸びた立髪が明らかな違いを誇示している。金色に輝くその毛並みは、夜目を強化した状態では眩しいほどだ。

 間違いない。こいつはたんなる魔獣ではなく、さらに進化したユニークだ。


「ティル姉、とにかく治癒魔法で彼を動ける状態にしてくれ。そしてアルマ、その間、ここを護ってくれ」


 振り絞るような声で二人に伝え、おれは資材置き場から拝借しておいたナタの柄を握る。

 武器としては気休めにもならないが、どことなくかつて愛用していたククリナイフに似ていることから持参していた。


 まずは、ここからヤツを引き離したい。

 そう考え、あえて距離を詰めるように動き出した。

 一歩。二歩。三歩──。

 こちらの動きを凝視していた魔獣が、高台から跳躍する。


 そのまま弾丸のような速度で斜面を駆け下り、こちらへ疾駆してくるが、目で追えないような動きではなかった。


 「ハーミット」


 岩場に飛び上がろうとする動きにあわせて視覚妨害のスペルを飛ばす。

 足元を狂わす目的だが、これはあっさりとレジストされた。

 さらに、スウェイ。

 これも効果がない。

 しかし、連続した妨害行為に警戒したのか、ヤツは直進するのではなく迂回するように跳躍した。


 「フリクト」


 その着地点となる岩を狙って、摩擦係数を低下させるスペルを設置。

 一瞬、不安定になった足場だが、そこは四足歩行ならではのバランス感覚で安定を崩さない。


(そろそろか)


 そう判断したおれは、一気に渓流の上流側に駆け出した。

 ヘイトは充分に稼いだはずだ。

 こっちへ来いと言わんばかりに、魔獣の眼前を横切っていく。


 案の定、ヤツは行く手を塞がんとばかり方向を変え、さらに速度を上げる。

 互いの進路が交錯する瞬間、魔獣は前足を振り上げた。

 そこには3本の凶々しいブレードが生えている。


(やっぱりか)


 こいつはブレードウルフから進化した個体で間違いないようだ。

 閃光のような3筋の軌跡を読み、魔力を纏わせたナタで受け流す。


 魔獣の動きには、かならず一定の流れがある。

 戦闘に臨む前にその動きを調査しておくのは常識であり、ブレードウルフとの戦闘なら何度も経験している。

 こいつも同様に、前足からのブレード攻撃が定番のようだ。

 当然、前足を振りかぶるために後足で立つ姿勢になり、攻撃後はやわらかな腹部が露わになる。


「バレット」


 そこにカウンターで魔力弾を撃ち込んだ。

 相手は魔獣なので、ガルロアと対したときよりも、さらに全力で魔力を込めてある。

 着弾の勢いでヤツは仰け反ったが、そのまま身をひねるように反転して距離を取った。


 身を低くしてこちらを警戒しはじめたところを見ると、大したダメージにはならなかったにせよ、最大の武器であるブレード攻撃は封じたことになる。

 あと警戒すべきは、強靭な顎による噛みつきぐらいだ。

 ただし、おれにとってもバレット以上の火力を出せる攻撃手段はほぼない。

 

(たとえ長期戦になっても、このまま体力を削って撤退させられれば)


 そう考えていたとき、魔獣が新たに動き出す。

 いままでの直線的な疾走ではなく、おれの周囲で左右に跳躍しはじめた。


(幻惑させて、不意をつくつもりか)


 相手を見失わないよう、最小の足さばきで身体の向きを移動し、とにかく視界に姿をとどめる。

 それでも、不規則な動きで視界の外に出ようとする魔獣に向き直ろうとした瞬間を読まれたのか、とつぜん直線的に突進してきた。


 今度は低い姿勢のまま、顎を大きく開き、凶暴な牙をむき出しにして噛みついてくる。


 足元狙い?

 先に動きを奪うつもりかと考えたおれは、念のために左右ではなく上に跳躍してかわす。


 このままやり過ごして背後を取ろうとした瞬間──。

 魔獣の背中が激しく輝いた。


 金色の立髪が一気に膨張し、そこから無数の魔力の刃が射出された。

 空中で動けない状態に誘ってから、やつは仕掛けてきたのだ。

 

 暴力的な光の奔流に飛び込むように、おれは全身を屈める。

 前面投影面積を最小にしてから、腕に魔力障壁を展開し、頭部を覆うようにガードした。

 それでも、鋭い刃が一斉に全身を切り刻む。

 すさまじい激痛だが、痛覚遮断は使えない。

 痛覚を閉ざすということは、運動神経まで麻痺させることになるからだ。


 必死で意識を手放すまいとしながら、着地の姿勢を整える。

 しかし、そこには新たな脅威が迫っていることに気づく。

 そう、魔獣の体躯で金色だったのは、立髪だけではなかった。

 やつの尻尾も、同様に輝いていた。


 鋭利な刃物を束ねたような金色の凶器が、おれの着地の瞬間を狙っていた。



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