この親にして、とか言われたくない。
第2話になりますが、序盤でまだまだ説明調ですが、しばらくおつきあいください。
リビングに、コーヒーをドリップするときの芳しい薫りが広がっていく。
親父とアルマはやはり外で食事をしてきたようで、とりあえず落ち着いて話を聞くためコーヒーを淹れることにした。
アルマはとりあえず部屋に案内して、スーツケースで運び込んだ私物の整理をしてもらっている。
なので、コーヒーサーバーから2杯だけを注ぎ、リビングのソファーまで運んだ。
「で、どういうわけか事情を説明してもらえるかな」
親父にカップを手渡してから、おれも向かいに座る。
「事情って。転移者を一人ホームステイさせるって話、前にしてただろ?」
「母さんは海外赴任、姉貴は東京に下宿。こんな野郎二人暮らしの家に、まさか女子高生を同居させるなんて思わねぇよ!」
「むしろ、さらにむさ苦しくならなくて良いじゃないか。……ん?やっぱりおまえの淹れるコーヒーは美味いな」
まあ、とある理由から、コーヒーのドリップはさんざん練習したし。
「って、そんなこと気にしてる場合かよ。そもそも彼女がうちの学校に編入されてきたのも、どうせ親父の手回しだろ」
「ああ、うん。そこはまあ気を利かせてな」
コーヒーカップを持ち上げていきなりニヤリと笑う親父。
さては、なにか企んでるのか?
「気を利かすってなんだよ」
「そりゃおまえ,ボーイ・ミーツ・ガールで定番のひとつだろ!可愛い女子がクラスに転校してくるなんて」
なにも企んでなんかなかった!この色ボケ親父!
さすがに熱り立ったおれを見て「まあまあ」と言いながら、親父はようやく少し真面目な顔になる。
「アルマさんの場合はな、ちょっと、問題があってだな」
問題というと……、多分あれだろう。
「ジョブが剣聖のことか」
「もう知っていたか」
「彼女ふつうに自己紹介してたからな」
「まっ、口止めもしてないしな」
カチャリとカップをソーサーに戻してから、親父はようやく本題を話しだした。
「いままでの転移者でも剣聖なんてはじめてなんだ。剣士や魔道士なんてファンタジーそのもののジョブから、農夫や大工まで。彼らは『天職』と呼んでるらしいが、ほんと多種多様なんだよ。ただ珍しいだけじゃない。文字通りなら、剣聖なんてどう考えてもやばい」
「まあRPGゲームとかだと、いわゆる上級職だな」
「らしいな。で、いろいろとお役所から横槍が入ってな」
「……」
「しかも直轄の厚労省どころか、もっとやばいところからだ」
それがどこか、およそ察しはつく。日本の国防を担うあそこだろう。
現代戦において個人の能力差などたかが知れているが、それでも無視はできないということか。
「なので文化教育期間として規則に設けられている一年を終えても、彼女は人材派遣に出さず、特別に国費で保護養育することになったわけだ」
保護養育とはまた体の良い、しかも傲慢な言い方だな。ぶっちゃけ監視対象ということだろう。
「それで家にホームステイさせて、わざわざおれとおなじ学校、おなじクラスに編入させたと」
「そういうこと!」
「そういうこと、じゃねえ。おれのプライベートはどうなるんだよ。家でも学校でも四六時中一緒にいろってか」
「うむ、役得だな!」
サムズアップでもしそうな勢いで満面の笑みを浮かべる親父。その顔を、一発殴らせろといわんばかりに睨みつける。
「……まあ、べつに四六時中とは言わんからさ。多少は気にかけてやってくれ。彼女は15歳で異世界転移させられて、まだ16歳になったばかりなんだ。口には出さないが、故郷のことや家族のことも恋しいだろう。なによりこの日本で生きていくことに不安が大きいはずだ。少しだけで良いから寄り添ってやってくれないか」
言いたいことは山ほどあるが、そんな正論を向けられたらさすがに無下にもできない。
ここで頑なに同居を拒否したところで、後味の悪さしか残らないだろう。
こっちの性格を見透かされている気もするが、受け入れるしかないようだ。
ここからは、なんとか妥協点を見つけるべく、これからの生活ルールについて親父との交渉を進めた。
そんな二人の様子を気にしたのだろうか。アルマは最後まで二階から下りてこなかった。
「しかし、あれだな」
そろそろ寝るかとなったときに、親父が話をとつぜん切り替える。
「おまえ、変わったよなあ」
「は?」
「なんというか、見た目は変わってないのに急に大人びたと言うか」
「なんだよ急に」
「いや急というわけではなくて、そう、あの神隠しの夜からな」
中学3年生の夏休み。母親の実家に帰省したおれは、神隠しにあった。らしい。
一人で山に遊びに行ったおれが夜になっても帰ってこず、親戚中で大騒ぎになったという。
地元の青年団が捜索してくれたが見つからず、夜明けを待って山探しをするという段取りになっていたようだ。
ところが翌朝、山中の神社の境内で寝ているおれが発見された。
なぜ行方不明になったのか。一晩なにをしていたのか。事情聴取された警察でもうまく説明できないおれを見て、田舎の親戚たちは「神隠し」として納得してしまった。
「人間、たかが一晩ぐらいで成長したりしねえよ。まあ、みんなに迷惑かけたことは知ってるし、心配してくれてありがたいと思ってるけど」
「そうだな。うん。だからさ、逸人」
「なんだよ」
「アルマさんのことも、できれば長い目で見守ってやってくれ」
まあとりあえず「了解」だと手のひらをひらひらさせて、おれは二階への階段を登った。
自室までの途中、アルマの部屋の前で一瞬立ち止まる。なにか声でもかけようか。そう思ったけど、うまい言葉も見当たらず今夜のところは止めておいた。
どうせ明日から、家でも学校でも、毎日顔を合わせることになるのだから。
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