第1部 第5章 運命
日が暮れ、街は静かな夜の色に染まり始めていた。明かりが灯る住宅街を、悠真と凛は並んで歩いていた。
「なんだかんだで、今日はすっごく歩いた気がする」
「確かに。万歩計つけてたらすごい数字になってそうだな」
凛が笑い、悠真もつられて笑った。いつも通りの何気ない帰り道。でも、どこかこの時間が終わってしまうことを、互いに惜しんでいた。
「ねえ、今日のパフェ、美味しかったね」
凛がふと思い出したように口を開く。
「うん、めっちゃ甘かったけど、あれはあれでアリだな」
悠真は笑って答える。
「私はあのいちごの真っ赤なソースが好きだったなあ。ちゃんと果肉入ってて、なんか本物っぽくてさ。」
「いちごなんだから赤いに決まってんじゃん。」
「それくらい濃かったってこと!」
笑いながら、凛は自分の肩を悠真の肩にぶつける。
小さな交差点の前で、二人は立ち止まった。信号は赤。車はほとんど通っていない。
凛が口を開いた。
「ねえ、今日はありがとう。ほんとに、楽しかった」
冷たい風が吹いた。
「俺こそ、ありがとう。」
凛が微笑む。その笑顔が、まるで記憶の中の宝石のように輝いていた。信号が青に変わる。
凛が一歩、前に出る。
「じゃあ、また明――」
――その瞬間だった。
キィイイイイ――――ッ!
耳を裂くようなブレーキ音。
そして、視界の端に、猛スピードで迫る車のヘッドライトが映った。
「凛――!!」
悠真は咄嗟に手を伸ばした。
けれど、ほんのわずかな距離が、あまりにも遠かった。
鈍い衝撃音が響く。
世界が、凍りついた。
音が消える。色が消える。
ただ、真っ白な空間に、悠真の意識が落ちていく。
――やめてくれ。
――頼む。
――神様、お願いだ。
その願いは、虚空に吸い込まれるように消えていった。