第1部 第3章 放課後
校門を出てしばらく歩いた先に、約束していたいちごパフェのお店が見えてきた。
小さなカフェの入り口には、季節限定のパフェのポスターが掲示され、赤い果実と白いクリームが大きく写されている。店内に入ると、柔らかな照明とほんのりと漂うスイーツの香りが、二人の心をほっと包み込む。窓際の席に案内され、向かい合って座った悠真と凛は、メニューを手に軽やかに話し始めた。
「今日、なんか楽しいな。こんな風に二人でいられる時間って、当たり前かもしれないけど、ある意味特別だと思うんだ」
凛は笑顔で頷きながらも、どこか照れたような表情を浮かべた。
しばらく、軽い会話と笑いが交わされ、ついに二つのパフェがテーブルに運ばれてきた。宝石のように輝くいちごと、ふんわりとしたクリーム。目で見た瞬間、その甘さがただ伝わってくるようだった。
二人はパフェを一口ずつ味わい、その甘さにしばし心を奪われた。悠真は思わず、内心でかつてないほどの幸福感に浸る。
そして、ふと店を出ると、外の薄暗い空に冷たい風が吹きつける。二人は家に向かって並んで歩きながら、他愛のない話をしながら、静かに日常の一瞬を刻んでいた。
突然、悠真が立ち止まり、深く息を吸い込むと、静かな口調で切実な声が漏れる。
「凛……もう少し、一緒にいよう。」
その言葉に、凛は一瞬驚いたように目を大きく見開いた。普段の明るい笑顔の瞳に、驚きと、そして微かな優しさが映る。
「うん。いいよ。」
凛は笑顔で答え、そして少し照れたような表情になった。二人の間に流れる時間は、今まで以上にゆっくりと、温かく感じられた。まるで世界が、二人だけのために広がっているかのように…。
悠真はその瞬間、自分自身の心の中にある、何にも代えがたい確かな想いを噛みしめた。
――こんな日々が、ずっと続けばいい。
何もかもが特別で、ただ当たり前に感じられるこの時間が、永遠に続くように…。
彼の思いは、ふたりの沈黙の中にそっと溶け込んでいく。校門の近くを歩きながら、二人はしばし無言で見つめ合った。何も言わず、ただその眼差しだけが、すべてを物語っていた。
悠真は、今この瞬間が、二度と戻らない大切な日常であることを、心の底から噛みしめながら歩み出した。彼にとって、凛と過ごすこのひとときこそが、かけがえのない宝物だった。