第1部 第14章 白い空
――鈍い音が、鼓膜を突き刺した。
凛の体が宙に舞い、まるで時間が止まったかのように、悠真の目の前でスローモーションのように回転した。灰色のスカートが風に揺れ、凛の表情が一瞬こちらを見た気がして、すぐに地面に打ち付けられた。
「凛っ!!」
絶叫した声が自分のものだと気づくまでに数秒かかった。足がすくみ、血の気が引いていく。それでも、悠真は足を動かし、倒れた凛に駆け寄る。頭の中で何かが壊れたように、鼓動がうるさく鳴り響いていた。
路面に倒れた凛の肩を揺さぶる。
「……凛、凛! 大丈夫か!? 返事してよ、なあ、凛!」
返事はなかった。目を閉じたまま、彼女は静かに横たわっていた。かすかに息をしているようにも見えたが、血のにじむ額が現実を突きつけてくる。
ドライバーの男が駆け寄り、青ざめた顔で何かを叫んでいたが、その言葉は耳に入らなかった。
救急車のサイレンが遠くから響いてくる。近づいてくるその音が、あまりにも遠く感じられた。
――助かったと思った。俺が凛を助けたと思ったのに。
なのに、なぜ。
どうして、今度は後ろからバイクなんて。
悠真はその場に膝をついた。自分の手の中にある凛の温もりが、どこか儚くて怖かった。まるで、何かに弄ばれているような感覚。
どうして、救えなかったんだ。
何が足りなかったんだ。
――また、失ったのか。
立ち上がることもできず、悠真は崩れ落ちたまま、空を見上げた。雲の隙間から覗く空が、あまりにも白々しく、美しくて、眩しすぎた。




