第1部 第13章 不可避の運命
凛の後ろ姿を目で追いながら、悠真は人の流れから少し離れて、足音を忍ばせるように歩いていた。人気の少ない道を曲がると、ふいに凛がしゃがみ込む姿が見えた。近くの小さな空き地。枯れ草の間から顔を出した野良猫が、凛の手のひらにじゃれついている。
「ふふ、だめだよ、急に飛び出したら。びっくりするじゃん……」
柔らかな声に、猫がさらに鳴き声を上げて応える。
(……大丈夫、今のところ何も起きていない)
悠真は、胸を撫でおろした。何かとてつもなく重たい未来が迫っているような気がしていたが、それもただの思い過ごしかもしれない。
このまま、何も起きなければ——
「……どうしたの? 帰ったんじゃないの?」
凛の声がして、悠真は肩をびくりと震わせた。凛がこちらを振り向き、不思議そうに首を傾げている。
「いや……ちょっと、その……凛のことが気になって」
言葉を探すように答える悠真に、凛は小さく笑う。
「もしかして、私ともっと一緒にいたいの?」
からかうような声音に、悠真は言葉を返せず、視線を逸らす。
その刹那——
キキィイイイッッ!
鋭いブレーキ音が響いた。視界の端、曲がり角から飛び出してきた一台の車。凛の足元が、ふっとその進路にかかった瞬間
「凛っ!」
悠真は迷わず凛の腕を引いた。次の瞬間、車はギリギリのところで止まり、横滑りしたタイヤが白い煙を上げる。運転席から降りてきたドライバーは、蒼白な顔で深々と頭を下げた。
「す、すみません!」
「あ、ありがとう……悠真」
凛が呆然としたまま、かすれた声で礼を言った。
その言葉を聞いて、ようやく悠真の胸から緊張が抜け落ちる。
(守れた……間に合った……)
ブゥウウウン!
爆音と共に現れたのは、車の陰から飛び出してきた一台のバイクだった。反射することもできないまま——その車体が、凛の細い体を一瞬で跳ね飛ばした。




