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第1部 第10章 決意

 窓の外を流れていく灰色の雲が、どこか不穏に見えた。

 教室に響く先生の声は、遠くのスピーカーから聞こえてくるようにぼやけていて、文字を追っているはずの教科書の内容も、まるで頭に入ってこない。けれど、この光景には、見覚えがある。隣の席で凛が真面目にノートを取っている様子も、黒板の右下の欠けたチョークのかけらも。


 そのすべてが、確かに「前にも見た」気がしていた。

 あの日――凛が死んだ、あの事故の日。悠真が「もう少し一緒にいよう」と言ってしまった、あの夕暮れ。


(俺は、あのまま病院にいたはずだ。母さんに会って……ペンダントを受け取って……光に包まれて……)


 記憶の糸が絡まりながらも、確かにひとつの点を結んでいる。自分は、あの日に戻ってきた。凛が死ぬ、あの当日に。


(もし……もしこれが夢じゃなくて、現実なんだとしたら)


 彼女は、今日の夕方、死ぬ。自分のせいで。自分が、あんなふうに引き止めたせいで――。

 胸の奥が締めつけられるように痛んだ。


(なら今度こそ、俺が守らないといけない。凛を……死なせない)


 理由も理屈もわからない。どうして戻ってきたのかも、何が起きているのかも不明だ。

 けれど、たったひとつ、心に浮かんだ答えはそれだった。

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴った瞬間、悠真はふっと現実に引き戻された。教室にざわめきが広がる。生徒たちが立ち上がり、いつも通りの一日が進んでいく。席を立とうとしたその時、凛がふいに声をかけてきた。


「 昼休みに話してたあのいちごパフェのお店、今日、一緒に行かない?」


 その笑顔は、どこまでも自然で、あたたかくて、残酷なまでに“いつもの凛”だった。


「……うん。行こう」

 

 今度こそ、絶対に守ってみせる――


 悠真は、そう心の中で強く誓った。


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