子供達の予定
「はっ!」
目を覚ました遥来は自分が昨日就寝についた部屋の布団の中にいることに気がつく。
昨日の事は夢だったのか…と悩みながらも体を布団から抜け出し顔を洗うために洗面台に向かう。
すぐ近くで寝ていたはずの両親は起きた時にはいなかったので既に目を覚ましていたようだった。
「おはよう、よく寝られたみたいだな。」
父親の直人は起きてきた遥来を見つけて朝の挨拶を交わす。
「父さんおはよう。今日は何か予定あるのかな?なんだったら手伝おうか?」
遥来は昨日の夜の出来事が夢か現実か分からずに心の中で胸騒ぎを感じながらその悩みから頭を逸らすように直人に手伝いを申し出る。
「大人達の方は気にしなくて大丈夫だ。それよりも子供達を見てあげて欲しい。まだ幼い子もいるからな。子供の中で代表として任せる。」
直人はグッと遥来の両肩を掴み遥来と話すとその足で大人達が集まっているであろう大広間に向かう。
「おっ、遥来おはよー。子供達の中では1番お寝坊さんだよ。直人さんの言う通り子供達の代表なんだから頼むよー。」
直人との会話を聞いていた様子の叶逢が遥来に声をかけてきた。
冗談交じりで責められる遥来は申し訳なさそうに頭を搔く。
そんな遥来をケラケラと笑って見ている叶逢。
2人は子供達が集まっているらしい叶逢が泊まっている部屋に向かう。
「あ、遥来お兄ちゃん。おはよう。」
恵は遥来を見つけて元気よく挨拶をする。
「恵ちゃんおはよう。それと優作君もおはよう。」
遥来は挨拶をしてきた恵とその横にいる優作に挨拶を返す。
「おはようございます。大人達は色々やっているみたいで手伝える事は無いみたいですね。今日はゆっくり過ごさせて貰うのが1番かもしれませんね。」
優作は大人の手伝いが出来ないとわかって静かに本を読み進める。
「あ、遥来さんおはようございます。」
「おはよう…」
どこかへ行っていた様子の往時が遥来を見つけて挨拶をする。
その傍にいる未来も小さい声ながら往時の影に隠れて挨拶をする。
「往時君と未来ちゃんもおはよう。2人は今日は何か予定は決まってるかな?」
遥来は双子の兄妹に挨拶をしながら予定を確認する。
「僕たちは特になんにも無いので近くを散歩しながら見て回ろうかなと思ってます。大人の邪魔はできませんから。」
往時は未来を撫でながら何をする予定か伝える。
そんな様子に微笑ましく思う遥来だった。
「ねぇ、遥来は何も予定は無いんだよね?それなら少し私に付き合ってくれないかな?少し調べたいものがあってね。」
叶逢は恥ずかしがりながらも遥来に声をかけて来た。
これは何かフラグが立ったか?なんて冗談を思い浮かべながら遥来は返事をする。
「ごめんなさい。俺たちそういう関係にはなれないと…」
遥来は何も言われていないのに告白された感じを出して断ろうとすると速攻で叶逢が後ろから腕を使って遥来の首を絞めて来る。
「じょ、冗談だから!ギブギブ!」
遥来は強めに締められた首にまわっている腕を何度もタップしてギブアップ宣言をする。
すぐに腕を離してくれたが多少締まっていたので咳き込む遥来を笑って見つめる恵。
そんな風景を見て先程まで緊張していたようで険しい顔をしていた未来も笑顔になる。
「酷い目にあった…冗談に決まってるんだからそこまでしなくても。なんだっけ?何か調べたいものがあるって?わかった、手伝うよ。」
ふざけながらもちゃんと話を聞いていた遥来は叶逢の誘いを受ける。
「それじゃあ、恵は僕と一緒に本でも読んでいようか?」
叶逢と遥来の邪魔は出来ないと優作は恵を読書に誘う。
恵も優作の言いたいことがわかっているようでうなづいて優作の傍に座り込む。
往時と未来は予定通り出かけるための準備をしている。
そんな子供達を見て問題ないと判断した叶逢と遥来は屋敷から出ていく。
「叶逢、一体何処に行こうとしてるの?」
遥来は細かい目的を聞いていなかったので調べ物をするために何処に向かっているのか分かっておらず叶逢の後をついて行きながら確認する。
「うーん?もうちょっとすればわかるよ。」
はっきりとした事は言わずに黙々と進む叶逢の後を静かについて行くことに決めた遥来。
山道を登っていくとそこには古ぼけた屋敷があった。
「ここは?誰かの家…なのか?」
遥来はかろうじて原型を留めていると言ってもいいくらいの古い家を見て今は住んでいないであろうと思いながら誰かの家なのか叶逢に聞いてみる。
「ここは、おじいちゃんの秘密の家だよ。秘密と言っても大人達は皆知ってるんだけどね。子供達にはそのうち伝えるって言うことらしいけどここを知ったからって何かある訳じゃ無いんだよね。」
叶逢はここが成政の家のひとつだと話すもその顔は暗くいい話では無い雰囲気が漂う。
古ぼけた家の鍵を開けた叶逢は扉を開けた後、遥来に先に入るように促す。
「そうなんだ、それでここで何を調べるって言うの?とりあえずお邪魔します。」
遥来はここで叶逢が何を調べたいのかよく分からないしそもそも調べるような何かが残っている感じはしていないが家の中に入っていく。
古ぼけた家は廊下も清掃されておらず靴を脱いで上がる気には到底ならなかった。
「大丈夫だよ、靴のまま皆上がってるから気にしないで進んで。」
叶逢は土足でも問題ないと遥来を先に進むように促す。
叶逢がそういうならと土足で廊下を進んで行く瞬間にふと頭の中に謎の映像が流れて来る。
それは、遥来がこの廊下を後2歩進んだ時に叶逢が家の鍵を閉めてこちらに笑顔を向けて来る映像だった。
最近よく見る謎の映像に困惑しながら映像で見たとおりに進んだ後に後ろを振り返って見ると叶逢が映像通りに家の鍵を閉めてこちらを見て微笑んでいる。
「叶逢?一体何をして…」
遥来は鍵を閉めた理由を確認しようと声をかけると途中で顔の横をカスって何か鋭いものが通って行く感じがした。
何かが通った頬を触ってみると鋭い痛みがして何か液体がついている感触がした。
家が暗くてはっきりと分からなかったが恐らくそれは遥来の血だった。
「ち、暗くて狙いを外したわね。」
叶逢は先程まで向けていた笑顔とうってかわり怖い顔で遥来を睨みながら何かを仕掛けた様子だった。
「何が…」
「今度は外さない!」
何が起こっているのか全く把握出来ていない遥来に向かって叶逢は更に何かを仕掛けて来る。
暗がりの中で鈍く光るものが今度は3本見えて遥来に向かって飛んでくる。
「うわぁぁぁっ!!」
微かに光って見える物がナイフだとわかった遥来は驚いて大声を出してその場で尻もちをついてしまう。
3本のナイフは遥来の頭を目掛けていたようで尻もちをついたお陰で結果的に躱す形になった。
「……!!」
何が起きているのか変わらず理解出来ていない遥来だったがこのままこの場にいたら殺されると感じ必死になって暗い家の奥に逃げ出す。
「大丈夫…鍵は閉めたし窓は板で封じてあって逃げられなくなっている。1階の奥に逃げたことはわかっているしこの家はそんなに広くないから逃げられる場所も限られる。私ならやれる…大丈夫…」
叶逢は自分の右手が震えている事に気がついて必死に左手で右手の震えを抑える。
心を落ち着けて震えが止まった頃には遥来の逃げ惑う足音がなくなっていたので叶逢は静かに家の中に進んで行き遥来を殺そうと鋭い目付きで探し始める。
異能バトルの開始です。
叶逢の能力は次回説明予定です。