家族と友達
「遥来さん、久しぶりですね。遥来さんが大学に行ってからなのでまだ1年も経ってないですけど僕たちはずっとこっちにいたので他の人とは大抵会っていましたからね。」
貴之の息子である優作は遥来に久々に会えたことを喜んでいた。
「そうだよ、遥来お兄ちゃん。恵は寂しかったよ。最近のパパとママはピリピリしてること多くてお兄ちゃんと一緒に部屋で遊んで気を紛らわせる事が多かったんだよ。」
優作の妹の恵は遥来に懐いているようで飛びつきながら甘えてくる。
「ごめんよ、優作君も恵ちゃんも元気そうで良かったよ。それに未来ちゃんと往時君も久々だね。2人は学業が忙しくてなかなか会う機会なかったもんね。」
遥来は抱きついて来た恵を下ろして未来と往時にも話を振る。
「遥来さんも大変ですね。大学生活忙しいでしょうに、お爺様のせいでこんなに事になってしまって。」
心配そうな目で未来は遥来を見つめる。
「とやかく言っても僕達子供は親の言うことを聞くしかないわけだし、遥来兄さんと叶逢姉さんを主体に仲良くやっていくしかないよね。」
往時は達観したように叶逢と遥来を見つめていた。
そんな風に子供達を落ち着かせながら談笑していると大人達が方針を決めたみたいで声をかけてくる。
「当分の間はこの屋敷の中でそれぞれの家族に別れて過ごす事に決まったよ。子供達に窮屈な思いをさせるのは良くないと言う話にもなったから子供達はそれぞれ自由に過ごして貰って良いという事になったんだ。ちなみに僕達大人組は屋敷内の遺産になりそうなものをあちこち調べることになったからそれを手伝うもよし、この村から出なければ言いわけだから村の中であっちこっち遊び回るのもよしってことになったから自由に過ごしてね。」
大人達の決まった内容を彰さんが代表して伝えに来てくれた。
「わかりました、彰さんありがとうございます。今のところは皆落ち着かないだろうしそれぞれの家族で過ごすのが良いと思う。結構時間経っちゃったし色々あったから皆ゆっくり過ごして明日からまたそれぞれどうするか考えよう。」
遥来は子供達が不安な想いを抱いていると考えて恵の頭を撫でながら子供達に自分の考えを伝える。
子供達は強がって見せていたが内心は不安だったようで遥来の意見に賛成してそれぞれの親の元に別れて行った。
「遥来、やっぱり任せて正解だったよ。ありがとね。」
叶逢は遥来の肩をポンと叩いて健介のところに向かっていった。
少しは役に立ったかなと考えて遥来も直人の元に戻る。
「父さん、俺はせっかくだしまだ時間あるから友達に会ってくるね。」
遥来は地元に戻っている電車の中で仲の良かった友達の1人に連絡を取っており、その友達と会いにいこうとする。
「遥来、せっかく帰ってきてもらったのにこんな事になってすまない。せめてこっちにいる間は楽しく過ごしてくれ。」
直人は遥来の肩に手を置いて本当に申し訳なさそうにしていた。
「大丈夫だよ、父さん。父さん達の方がよっぽど大変なんだからできることは手伝う事にするからさ。それじゃ行ってくるね。」
遥来は笑顔を直人に見せて屋敷から出ていく。
いつの間にか雨は止んでおり傘が必要なく手ぶらで屋敷を出た遥来が向かう先は連絡をとっている友達とよく話し込んでいた近くの公園に向かう。
成久の遺言のせいで考えることは多いが久々に会う友達に不安な顔を見せないように公園に着く前に笑顔になってみせる。
「おーい、遥来!久々だな。元気だったか?」
公園まで近づいた遥来に向かって声をかけて近づいてくる青年の姿が遥来の目に映る。
「敦也、久々だな。携帯では連絡を取り合ってたけどこうして会うとやっぱり違うものだよな。」
頑張って笑顔を作っていた遥来だったが敦也の姿を見て自然な笑顔になれた。
「帰ってきた事情が事情だけに大変だな。今回はどれくらいこっちにいる予定なんだ?」
敦也は遥来に会えた事でテンションが上がっているが親族が亡くなったことを加味してなるべく落ち着いた感じで公園内の屋根がついているベンチに腰掛ける。
「それは…はっきりと決まってなくて、恐らく1週間くらいかな。せっかく戻ってきたんだから今度集まって野球しようぜ。他の奴らも休みだから集まれるだろ?」
遥来は帰る時期が決まっていない事情を誤魔化すように遊ぶ約束を取り付ける。
「そうだな、遥来がこっちにいる間に色んな奴に声をかけておくよ。」
敦也は話が変わったことを気にしないで話を続ける。
久々に会った友達とそんな風に楽しく会話を続けていたが流石に暗くなってきたので今日の所は解散することにする。
「あんまり遅くなると悪いだろうからこんなもんにしとくか。それじゃまた明日時間あれば話をしようぜ。」
敦也は遥来に気を使って明日話そうと言って去っていく。
敦也に会えて少し元気のでた遥来は完全に暗くなる前に屋敷に戻ることにする。
外灯がつき始めた頃に屋敷に戻った遥来は4家族の部屋分けが決まった事を彰から聞く。
「遥来君の所は雪さんと詩織さんが仲が良いからウチとすぐ近くの部屋割りになったよ。健介さんと貴之さんの所はウチらの所から大広間を挟んで反対側だよ。」
取り決めた紙を見せながら彰はそれぞれの部屋割りを説明してくれる。
それぞれの部屋割りを確認して彰に感謝をして自分の家族の元へ向かう遥来。
その日は斑目が近くの弁当屋さんから人数分の弁当を買ってきてそれぞれの部屋に届けてくれた。
明日からはお願いしている家政婦さんが来てくれるとの事で暖かい料理が食べられるそうだ。
遥来は久々に会った自分の親相手に大学生活の話をして和やかに過ごす。
長々と話しているといい時間になったのでそれぞれの家族で決められた時間に風呂に入り明日からの事を考えて早めに就寝することにする。
布団に入ってそこそこの時間が経った頃、今日の突然の話に頭を悩ます遥来はなかなか寝付けずに1度起きて静かに外を散歩することにする。
昔から寝付けない時に家の周りを歩く癖のある遥来は綺麗に輝く月を見上げながら明日からどうしたものか答えの出ないまま悩み続ける。
ちょうど屋敷の入口の裏側に来た時、誰かが近くにいる気配がして1本外の道を歩く。
何気なく道を曲がって見た景色は夕方に会った敦也がなにかから逃げている姿だった。
咄嗟に声をかけようと思ったがこんな深夜に大声を出すと迷惑になると思い走って敦也の向かった方へ急ぎ1つ先の曲がり角を曲がるとそこには赤い液体が地面に流れているだけで敦也がいた事など夢であったかのように誰の姿もなかった。
本当に夢でも見ているのか不思議な感覚に陥った遥来は地面に流れている赤いものを目の前で確認するために近づいて見せる。
その瞬間、頭の中に誰かが自分の口にハンカチを当てて押さえつける映像が流れ込む。
ハッとして意識を戻し今の映像がなんだったのか気になりながらも後ろを振り返った遥来に向かってフードを被った何者かがハンカチを持って自分の口に当ててくる。
頭の中に流れた光景が実際に起こっている事に焦った遥来はそのハンカチを必死に払い除け屋敷にに逃げ帰る。
息を切らしながら屋敷に戻った遥来はここまで来れば大丈夫だと思い今起こった事を直人に伝えようと家族の寝ている部屋に向かっているといつの間にか屋敷に侵入していたフードの人物が遥来を後ろから押さえ込みハンカチを口に当てる。
いつの間に屋敷に入っていたのか気がつけなかった遥来は何が起こっているのか分からないまま深い眠りに落ちて行った。