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始まりの時

小ぶりながら傘を差さないと濡れてしまうくらいの雨の中1人の青年は窓に映る雨を眺めながら電車に揺られていた。

電車の目的地は青年の両親が住む地元、成高町だった。

大学生になり親元を離れ一人暮らしでバイトをしながら大学生活を送っていた青年がわざわざ地元に戻って来たのは祖父の訃報が飛び込んで来たからである。

自分の祖父は地元の名士らしく顔は広く資産も多く所有していた。

そんな祖父だがお金には厳しく必要が無いと判断したものは我が子相手でもお金を出さないと言う方針だ。

例にも漏れず祖父の孫である青年にも必要最低限以外のお金はまわって来ないため、バイトをしながら必死に大学生活を謳歌していた。


「なんでまともに顔を見たこともないような爺さんが亡くなったからって呼び出されなきゃいけないんだ。無理言ってバイト休みにしてもらったんだから遺産の一部でも貰えないとやってられないよ、もしお金が手に入らないなら親父に言って金を貰わないと。」


窓に当たる雨を眺めながら青年はぶつくさと独り言を呟く。

その青年の名前は高神遥来(こうがみはるき)と言う。

高神は勿論今回亡くなった祖父の苗字で地元では知らない人はいない。

遥来ははるか遠くの存在が訪れる、つまり人間より高い存在の神が遥かにいるが来てくれるように願って付けられた名前らしい。

付けられた本人はこんな大層な名前たまったもんじゃないと怒りを覚えたが付けられた以上は仕方ないと諦めていた。

そんな風に昔を思い出しながら電車に揺られていると目的の駅にたどり着く。

慣れた手つきで改札に切符を通し駅の出口へ向かう。

事前に聞かされていた時間に合わせて傘を広げ駅出口に行くと60代くらいに見えるが整った服装で誰かを待つ男性が立っていた。


「遥来様ですね、お待ちしておりました。」


その男性は手に持った写真と遥来の顔を見比べて丁寧に一礼し車のドアを開けて後部座席に乗るように案内する。

遥来は恐る恐る頭を下げて手に持った傘を閉じて車に乗り込もうとした時、足元が滑りやすくなっていたようで前のめりに滑ってしまい乗り口の上部に頭を思い切りぶつけてしまう。


「大丈夫ですか?」

「は、はい。大丈夫です。」


男性はすごい衝撃で頭をぶつけた遥来を心配する。

祖父の家までの案内に遣わされた人間が目の前で案内すべき人間に怪我をされたらそれは困るだろうと思い、相当頭は痛かったが問題ないように振る舞う。

遥来は何事も無かったかのように後部座席に乗り込みシートベルトを閉める。


「それでは成政(なりまさ)様の家までお送りいたします。申し遅れました私は成政様の執事のような役目をしておりました斑目孝治(まだらめたかはる)です。」


斑目は運転席に乗り込み自己紹介をしながら車を発進させる。

遥来はその男性に対して興味はなかったがさっき頭をぶつけた衝撃がまだ残っているのか頭が痛かったので顔を伏せるとまるで挨拶の返事のように一礼する形になる。

斑目はバックミラー越しに一例を返すと丁寧に運転を続ける。

遥来はあまりに頭が痛く、何かおかしいと思って変なところを打ってしまったかと考え込むが急にピタリと頭痛が病んだ。

静かな車内にはラジオのニュースが流れるのみだった。

遥来はさっきまでの頭痛がなんだったのか分からず変だなと考えているとふと頭の中に先程までいた駅の傍にある小さな銀行で立てこもり事件が発生したと言うニュースが流れ込んできた。


「立てこもり?」


よく分からずに呟くと数秒後に遥来の頭に流れ込んだニュースと同じものがラジオから流れる。


「先程まで私たちがいた駅の近くのコンビニのようですね。遥来様、よくニュースが流れる前に内容がお分かりになりましたね。」


緊急のニュースで遥来達がいた頃はまだ事件が起きていなく本来だったら知る由もないない情報が何故か数秒早くわかっていた事に自分自身で不思議がる遥来。

特に返答のない様子に不思議がるも何も言わずに運転する斑目。

そんな不思議な時間が数十分流れた後に目的地の家にたどり着いた。


「遥来様どうぞ。」


斑目は運転席を降りて後部座席のドアを開けて遥来が車から降りるように促す。

遥来は何も言わずに一礼して車から降りて大きな門の目の前に立ち尽くす。

斑目は運転席に戻り車を駐車場へ停めに行ったようだった。


「遥来、何を突っ立ってるの?」


久々に見る大きな門を観察していると後ろから声をかけられ振り向くと、そこには遥来の両親が立っていた。


「1年ぶりだな、また少し大きくなったんじゃないか?」

「いつまでもそこに突っ立ってると邪魔だからさっさと中に入るわよ。」


父親は久々に会う遥来に優しい言葉をかけるも母親は対照的に邪魔だと言い放つ。

1年ぶりだけど何も変わってないなと安心する遥来は門を開いて中に入っていく。

そこには既に親戚全員が集まっていたようで十数人くらいは家に入らずに庭で何かを待っているようだった。


「お待たせいたしました。本日来られる予定の皆様が集まりましたので中へ案内いたします。」


いつの間にか車を停めて戻ってきた斑目が家の鍵を開けてドアの横に立ち一同を中へ入るように促す。

遥来も他の人に続いて両親と共に家に入ろうとするがふと前を見ると少しお洒落した可愛い女性がこちらを見ていた。

可愛い子にじっと見られて落ち着かない遥来は目が合わないように横をむく。

その姿を見た女性は気にせずに前を向いて中へ入っていった。

親戚一同が向かっていた場所は大広間で全員が慣れたように特定の位置に座ると遥来はどこに座ればいいか分からずに立ち尽くす。


「遥来はここだ。」


遥来の父親が声をかけてくれたおかげで場所がわかった遥来は着席する。

全員が座ったのを確認した斑目は前へ向い大きな鍵のかかった金庫を開けて何か紙を取り出した。


「皆様、本日は成政様の遺言状読み上げの場に集まっていただきましてありがとうございます。本日来られていない親族の方もいらっしゃいますが事前にお聞きしていた方は本日来られていますのでこの場で読み上げさせていただきます。」


斑目の遺言状を読み上げると言う発言に一同が息を飲む。

遥来は自分にも遺産がまわって来ることを願いながらも他の人より気にしていない態度を見せる。

斑目は全員の様子を確認して金庫に入っていた紙を広げる。


「それでは読み上げます。「この度は私が亡くなった事で莫大な財産を継げると思っている人物が何人かいるであろう。だがこの私がそう易々と遺産を渡すと思っているようなものは親族の中にはおらぬだろう。勿論その通りで遺産は簡単には継がせない。遺産を相続する条件はただ1つ 我が血を受け継ぐ男の中で最後まで残っていたものとする。もし相続が決まる前に全員が死んだ場合や血で血を洗う争いを好まずに一同仲良く過ごすと言う場合には私の遺産は全て特定の基金に寄付する事とする。私の莫大な財産を継ぎたければ周りを蹴落としてでも1人生き残って見せるが良い。」以上が遺言状に書かれている内容となります。尚、この内容に関しては中にどんな事が書かれていても法的効力を持つものとされております。」


斑目の読み上げた遺言状の内容に驚愕する一同は自分が聞いた事が信じられずにその場で固まってしまう。



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