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小説ω

へんな事件

作者: 社長

 背中、というか体の裏側一面にビッシリ280本の包丁が刺さった遺体があるとの通報を受けた。


 被害者はこの部屋の主である26歳の女性で、名前が永軽蜂米麺茶えーけーびーふぉーてぃー栄子(えいこ)。普段はOLとして都内の企業に勤めていた。同僚の証言によると、一日中叫んでいてうるさかったとのこと。


 通報者は第一発見者の大虎(おおとら)子犬(こいぬ)。被害者とは学生時代の友人で、よく殴り合い寸前の喧嘩をしていたという。今日は休みが合ったので遊びに来ていた。


 現場には大虎の他に7名の友人がいたが、大虎が警察を呼んだ途端に全員が「トイレ行ってくる」と言ってアパートから出ていったという。


「では、捜査を始めてください」


「第一発見者に仕切られたの初めてなんだが⋯⋯」


 なぜかリーダーぶっている大虎にドン引き状態のベテラン刑事・死乗(デスライダー)夜死乗(よしのり)だったが、彼はすでに犯人が分かっていた。


「犯人は大虎さん、あなただ!」


「違いますよ!」


 まさか自分が!? という顔をする大虎。


「これを見てください」


 死乗が指さした先には、被害者が遺したダイイングメッセージがあった。


『おおと』


 で途切れており、ここで力尽きたと思われる。


「これが証拠だ!」


「でも、さっき帰った7人中5人の苗字が大戸(おおと)ですけど」


「なわけないだろ!」


「これ名簿です、見てください」


「なんで名簿があるんだよ」


 確かに7人中5人が大戸だった。残りの2人は自動(おーと)嘔吐(おうと)だった。


「じゃあ全員が犯人なんじゃないですか?」


 死乗とタッグを組んでいる若手の刑事・財布(さいふ)落俊太(おとした)が言った。


「確かに、包丁280本だもんな⋯⋯もしかしたらあと270人くらいいるんじゃないか⋯⋯?」


「あの、栄子って大トロが大好物だったんですけど、最後に食べたいものを書いたんじゃないですか?」


「なわけないだろ。背中に包丁280本刺さってんだぞ。普通そんなこと書くか? しかも平仮名で。大トロを平仮名で書くやつなんていないだろ」


「でも、これ見てください」


 大虎が指したのは被害者の近くに落ちていたノートパソコンの画面だった。Googleの画面が表示されている。


「ここの、検索履歴のところです」


「ん⋯⋯?」


【おおとろ 無料】

【おおとろ お試し】

【おおとろ 獲り方】

【おおとろ 生】

【おおとろ ローン】

【おおとろ 無利子】

【おおとろ 市役所】

【おおとろ 10円以下】


「なんだコイツ」


「ちょっと私の友達にそんな言い方しないでくださいよ!」


「君はこれが普通だと思ってるのか? なんだよ大トロのローンって」


「大トロが借りられるんじゃないですか?」


「借りてどうするんだよ」


「食べるんじゃないですか?」


「どうやって返すんだ?」


「⋯⋯うんち?」


「死乗さん! いい加減捜査をしましょうよ!」


「すまんすまん」


 ビーンポーンパーンポーン


 放送の合図が鳴った。


「なんだ? ここのアパートはこんな設備があるのか?」


「いや、今まで遊びに来てて聞いたことないです、こんなのがあるなんて」


『どうも皆さんこんにちは、栄子さんの部屋です』


「部屋っ!?」


「死乗さん、ウルトラマンの掛け声みたいですね」


「うるせっ!」


『フフフ⋯⋯』


「どうしたんだ?」


『この部屋の中に⋯⋯』


「まさか栄子を殺した犯人が!?」


『大トロがあります!』


「えぇーーーーっ!」


「いや死乗さん、この人の部屋は大トロある確率の方が高いでしょ。ってヨダレ出てるじゃないですか」


「食えるのかなと思って」


 ピンポンパンポン


「あ終わった」


「あの、刑事さん」


「なんだ?」


「大トロがあるとしたら冷蔵庫だと思うんです」


「俺もそう思うよ」


 冷蔵庫を漁る3人。中には本マグロと書かれたパックが大量にあるものの、大トロほど脂の乗った切り身は見つからなかった。


「なんでこんなに中トロがあるんだよこの家に」


「大トロは美味しいけどけっこうすぐクドくなっちゃいますからね」


「ああ分かる分かる、俺4切れで気持ち悪くなるもん」


「決まってるんだ」


「もしかしたら冷凍してるのかもしれないな」


 死乗の言葉を聞いた財布が冷凍庫を開ける。中にはガラスの器に入った山盛りのかき氷が2つ。それぞれ真っ黄色と真っ赤のシロップがかかっている。


「なぁ財布、休憩がてらこれ食うか。俺レモンがいい」


「2個しかないじゃないですか。大虎さんもいるんですよ?」


「大虎さんは友達が亡くなってそれどころじゃないと思うし、俺たちだけで食べちまっていいんじゃないか?」


「それもそうですね」ガツガツムシャムシャ


「よく本人の前でそのやり取り出来ますね」


 その言葉を聞いた2人はハッとしたような顔をした。


「ぺっぺっ! なんじゃこりゃあ!」


「ヤバいですよなんですかこれ血!?」


「血?」


「俺のは多分しっこだ」


「しっこ?」


「死乗さん、ここの家主ヤバすぎません?」


「ああ、もう帰っちまうか⋯⋯」


「あの、私の友達の冷凍庫にあったかき氷を勝手に食べた挙句最上級の悪口言うのやめてもらえますか?」


「一口食ってみろ!」


 そう言って死乗はスプーンで1杯掬うと、大虎の口へ投げ込んだ。


「しっこだ!!!!!!」


「だろ?」


「僕のも食べてみてください」


「こっちもしっこだ!!!!!! あ、でめほんのり血の味も⋯⋯血尿?」


「しっこと血尿のかき氷⋯⋯?」


「死乗さん、なんか僕ゲームセンター行きたくなってきました」


「俺も帰りてぇよ」


「刑事さん、大トロはどこにあるんです?」


「あ⋯⋯冷凍庫にないとなると、どこだ?」


「そもそも、さっきの放送が嘘だという可能性もありますけどね」


「でも俺、もう大トロ(ばら)になってるんだよなぁ」


「冷蔵庫に入ってないことが確定してる大トロですよ?」


「それでも食いてぇんだなぁ⋯⋯」


 3時間探し回った頃、掛け布団をばっ! っと剥がした財布が大トロを見つけた。


「ありましたァーーーーーーーーー!!」


「ホントかァーーーーーー!!!!!」


 大興奮で走ってくる死乗。


「さぁ死乗さん、食べてください!」


「⋯⋯汚ねっ」


「まあそうなりますよね」


「まぁ食うけど」


「えっ!?」


「いただきます⋯⋯味しねぇ」


「醤油つけないと美味しくないですよそりゃ」


「さて、こっからどーすっかな」


「どうしましょうね」


 殺人儀式の予定があると言って2時間前に大虎は帰っていったし、被害者は普通に復活して今はYouTubeでゆっくり解説を見ている。


(けぇ)るか!」


「そッスね!」


 こうして2人は仲良くおててを繋いで帰っていった。

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