みかけは変わらぬ
「コウセンと、たくらみやがったな」
なにか事が起こったときに、そこにみあった神官や役神を選んで遣わすのがシャムショの仕事とはいえ、高山だからとスザクを指名して、あれだけせかしたわけがしれた。
はじめから、スザクにギョウトクを追わせるつもりだったのだろう。
「おいじじい、おれは今、《高山》の坊主ってわけじゃねえんだ。コウセンに頼まれた《中山》を潰す仕事は終わってんだから、もう帰ってもいいだろうがよ」
「ほお。駄々っ子のようなことを言う。 ―― わしはなあ、ミカドのように《くちだし》はできぬが、呪力のある言葉をしっとるぞぉ」
かすれた笑い声をひびかせた年寄が小声でささやく。
「 ムシが、おまえの大事なものを捕まえようと、ねらっとる 」
スザクの怒気が一気にふくらんで、コウアンは驚いた。
「よせ、スザク。怒りをおさめろ」
『徳』をとる前の子どもの時から見知っているが、こんな状態になったのは初めて目にした。
内側で怒りをたぎらせる男が年寄をにらみ、立ち上がって言った。
「くそじじい。なにかあったら、てめえを殺すぞ」
驚いたコウアンがとがめる声などきき流し、スザクは背をむけて去って行った。
椀をかたむけるタンニが笑う。
「まったく、人というのはおそろしいのう。 自分ではない者のために、仲間である人も殺すという。 ―― それを行ったとしても、みかけは変わらず、人だものなあ・・・」




