のぞきみている
小さな火の玉となって庭におちたムシを見おろし、顔をしかめたトクジがうなる。
「っくしょう、なんの妖気もねえくせに、しゃべるんじゃねえ」
「さっきの声だ。子どもでも大人でもないような」
トクさんの境の中にいれても平気だったな、とコウドが驚く。
シュンカのひきつったような小さな声が二人をふりむかせた。
「『あそぼう』って、たしかに、しゃべりました。小さな子みたいに・・・」
庭に落ちた点のような黒い塊をみつめる眼は、驚きと悲しみに満ちていた。
舌をうったトクジがずいと寄り、シュンカを厳しい顔で見下ろす。
「 いいか、おかしな気配をもってなくとも、ありゃあ妖物の仲間にかわりはねえ。 よくわかってるだろうが、同情をしたところで ――― いいことなんざ、なにもねえからな」
へたな情けは思いもよらないことをひきおこす。
それは、トクジ自身がいちばんよく知っていることで、シュンカにも心当たりのあることだ。
「 ―― はい、よく、こころえております」
「・・・いや・・わるかった」
自分がひどいことを言っている自覚のある男はすぐに謝り、しずかに見上げる相手の顔を見ないですむように抱え込む。
黙って見ていたコウドのあきれたような声がかかる。
「なるほど。こうしてみると、トクさんはほんとにシュンカに『べた惚れ』って感じだ。 ムシが茂みからのぞいて見てても、そう思うだろうよ」
ムシはどこにでもいるものだ。




