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コトネムシ
「しかし、おれが入ってきたときにはそんなおかしい気配などなかったぞ。それに、トクさんが境を張っていたわけだし」
だが、ムシの気配の違いに気づけなかった。
「人の声とは、どのようなものですか?」
シュンカの問いにコウドは庭から拾い上げたものを握る手をあけた。
そこには片側の三本の脚をきれいにおとされた、この季節に鳴き競うムシがいた。
「ああ、コトネムシですね」
「そういう名があるのか?」
トクジが聞くのにシュンカは、うちの里ではそうよんでいました、と足をおとされてもがくムシをのぞきこんだ。
・・・ソ ボ ・・アソ
ぱんっ!
と、トクジが印を結び、コウドが投げたムシを燃やした。




