会いたがっている元軍人
頬の傷あとをかく男は、おめえにな、と少しばかり言いにくそうに、言葉をとめた。
「 ―― おめえに、会いたがってるやつがいてな。 ああ、でも、いやなら会わなくてかまわねえんだ」 あっちの勝手な横恋慕みてえなもんだし、と笑おうとしたのに失敗し、困ったような顔のまま、こういう冗談はよくねえな、とひとりごちた。
「・・・あのな、―― むかし、西の軍人だった男なんだがよ・・」
「西の!?」
「っとお、ダメだな。こんな道端で話すことじゃなかった」
シュンカの『気』の乱れに慌てたトクジは頭を抱えこんで謝った。
そのまま抱え込まれた頭に、おめえの親父さんには手出ししてねえ軍人だがよ、と言われたが、どうにも胸の動悸はおさまらない。
そのままけっきょく詰所に連れて行かれ、シュンカの具合がよくねえんだ、と叫んだトクジはそのまま自室へと進み、そこでようやく頭を離された。
「どうだ?まだ苦しいか?」
かがんでのぞきこむトクジと目があったとたん、なんだかわからないが、涙があふれた。
自分でも驚いて戸惑ったシュンカが謝れば、目をのぞきこまれたまま、それでいい、と微笑まれる。
―― ああ、やっぱり、似ている・・・
そこで、涙は止まった。




