ミカドの命
「 その蟲がなんであろうと、われらの空にはいらぬように、おまえらが考えればよいことだ。 それよりも、こうしてわれが教えにきてやったのを、 ―― どう思う?」
人に恩をうるようなまねを《テング》がするわけもない。
スザクが鼻にしわをよせ、どうせ高山の坊主の精気を喰いにきたのだろう、とドウアンとコウアンを顎でしめした。
ヨクサは向かいの坊主二人をみくらべてうっすらと笑う。
「 そうさな。 ―― 久方ぶりにそれもよかろう。ジュフクの方が美味いが、われの相手をさせて人としての寿命を縮めるのも望むところではないしな。 だがなあ、スザク、ここにわれが来たのはな、『ミカド』に命じられたからだ」
「な、なんと!」
「『天帝』に?」
坊主たちが腰をうかし、驚いた。
この世のことを、なんでも見通している『天帝』である『ミカド』は、下界のことには何も《口だし》しない。
それは、この高山にも同じことで、なにかよほどのことが起きるときでなければ、あの『化け猫』が動くことはない。
もしくは、よほど《おもしろい》ことでもないかぎり。




