童子
「ただのトンボはしゃべらねえだろ。で、なんてしゃべったって?」
ヨクサと言葉を交わすのが嫌でしかたないように顔をしかめてスザクが聞くのに、にんまりした赤い口がこたえた。
「『あそぼう』と言ったらしい。 童子のようにな」
コウアンがさらに顔をしかめ、ほんとうに妖物ではないのか?と念押しするようにスザクを振り返る。
「ちがうな。妖物じゃあねえよ。なんの匂いもしねえしな」
じゃあいったいなんなのだ?というコウアンの問いに、ドウアンが低い声をだす。
「―― たとえば、ほんとうに、ただの童子だとしたら?」
「はあ?なにを言っておる」
「おれも、修行中に幾度か会ったことがあるが、言葉を《とばす》こどもがおる」
「『とばす』? ははあ。あれか。遠くからこちらの頭の中にじかに話しかける『力』をもつこどものことか? まあ、わしも昔おうたことがあるが・・・。だが待て。 だとしたら、そのこどもは、蟲をとおして、それをしておるといういうことか?」
いったいどういうわけで?とコウアンがこれ以上ないほど顔をしかめる。




