6/193
今しか
少し前に、自分に近づいてきた西の『ホムラ』という男は、最後、おのれで『人』から『妖物』へと変化していったと聞いたが、そんなことはない。
神官として《禁術》をおかし、軍人となる道をえらんだところから、すでに『人』などではなかったのだ。
ホムラの最後を楽しそうにきかせてくれた男とて、うまれたときから、『人』であったことなど、なさそうな男だ。
――― ただし、妖物などより、タチが悪い
あの男が、人間が暮らす西の領域を統括しているのかと思うと、自分はこの高山という、下界とは別世界の領域に暮らしていて正解だと思った。
『西』でそれなりの政をしているようだが、陰では天宮ににらまれるようなことを平気で行い、じわりと領域をふやしつつある。
いままではその責を、ホムラという軍官におしつけていられたが、その男を当の将軍がみずから裁いて消し去った今、いくら妖物のような男であっても、へたな動きは何もできまい。
――― 今しか、あるまい
着物のたもとの中で、ギョウトクの指が文字を綴っていた。