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手をつなぐ
―― その五 おとこまえの男 ――
つい、と顔の前を横切ったのは、このごろよくみる種類のトンボだった。
手をのばそうとしたが、子どもの頃の景色がとつぜんよみがえり、ためらう。
あげたままの中途半端な手を横からのびた大きな手がおろさせる。
「あ。・・・すみません・・・」
「なに、謝ることじゃねえさ」
トクジの手がそのままシュンカの手をからめとる。
「ただ、 ―― このまえのトンボの出どこがわかんねえから、用心にこしたことはねえってだけだ」
笑って繋がれた手で、トクジがこちらの『気』をさらに閉じ込めたのがわかる。
スザクのように固い蓋はできないので、シュンカが自分でできるまで、こっちのほうでするぞとトクジに手をとられて言われたので、ずっとまかせたままだ。
これをされると、シュンカの中のなにかがうずく。
それがわかっているかのように、トクジは握った手をゆるくふる。




