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『天守』さま
取り囲む坊主たちに、いきなり抱き付こうとして逃げられては笑う女は、からかうような視線をめぐらせ、肩まで抜いて身に着けた薄布の朱色の着物を、いっそう引き下げた。
豊満な乳房の張りが半分出され、周りの坊主たちが、おびえたように身をひく。
「あらあ~、ドウアンさまもいらしたのね~」
入り口に現れた男をみて、女は着物の裾をひきあげ、白い脚をみせながら石段をのぼってきた。
「お、お、おんな!こ、ここは、た、高山ぞ!」
女を入れまいと立ちはだかった従者の頭を、コウアンは後ろからはたき、どけ、と命じてから、
―― いきなり、膝を折った。
両の拳も石の床につけ、敬服の姿勢をとる男を従者たちはあっけにとられ眺めていると、ドウアンも、コウアンの隣に膝をつく。
わけがわからずに動けない他の坊主どもにむかい、コウアンが怒鳴った。
「何をしておる!このおかたは『天守』さまぞ!」




