中山の偽坊主
『清め』を終えたギョウトクは、スザクが高山に来たのを確認すると、自分の《写し》と従者を残して高山を去っていた。
《写し》のギョウトクは、『タイガンコウ』の籠もりの祈祷を続け、従者は、言いつけられた通り、《写し》といっしょに籠もった。 《写し》のギョウトクは、今まで通り小僧とまじわりながら耳元で、ミツ房から経を持ち出すように指示をだした。
「経を? あの、中山の偽坊主にもれてたのとは、別にか?」
スザクの問いに、いくつかな、とドウアンは眉間をつめた。
先日、スザクがきれいに潰した中山の修行場が繁盛していたのは、本物の『経』が得られるという噂が立っていたからだった。
実際にスザクがのりこんだ時に、高山の修行で最初に覚える経の写しがあり、調子にのった偽坊主たちが、それを口々にとなえながら迫ってきた。
本物の坊主にはまったく何の効果もなかったが、普通の者へならば、多少の効力があるかもしれないそれは、初歩の『縛り術』だった。
「中山に経がもれたという噂をきいてからお前がくるまで、ミツ房への出入りはより厳しくしたのだがな、あの小僧、ギョウトクから受け取った術札をつかい、おのれにギョウトクを《写して》なりすまし、いくつかの、古い経の写しを手に入れておったわ」




