いまさら
「 やはり、あのときに縛り上げて、『地下房』に放りこみゃよかったぜ。 ザイアンが、あんなことになった時、わしはギョウトクの着物をつかんで締め上げた。 そのときのヤツが、どんな顔をしたか、ドウアンも見ただろう? ―― だが、ヤツはそのときには、タイガンコウにむけて『清め』にはいっておった。 あとは一心に《経》をよみ、タイガンをジョウジュ願う。 だが、あの従者の話を聞いただろう? 経をよみながら、あの男は堂の中で、小僧と淫行にふけっておった! 《滝堂》は、明日にでも焼いて捨てるわ! 滝もしばらくは、清めをつづけてあやつの『気』をすべておいださねばならん」
ぐう、とくやしげに低くうなり、火傷をおった手をにぎりしめたコウアンに、いまさらだ、とドウアンが冷めた声をだす。
「 まあ、滝の水は、炊事や掃除にはいっさい使わないから、まだよかった。 川下の池は、すでに清めに行かせてある。 ―― それよりも、持ち出された《清水》と《経》のほうが気にかかる」
ドウアンが顔にかかる髪をかきあげた。




