妖物のようなものたち
だが、ギョウトクはわらってみせた。
「『噂』とは、げにおそろしきものでございますなあ」
膝についた土ぼこりを払うしぐさで身をかがめ、相手を下からのぞくように目をむけた。
「 ―― どうやら、わたくしは、いろいろと《ねたまれて》おるようでして」
年寄が後ろにひかえているので、『術』をつかうわけにはいかなかった。
ただ、威嚇の意味をこめた笑いをみせてやる。
怒りをおさえ動けなくなった男たちの横を通りすぎ、さきほど年寄にかけられた『術』を思い返し、腹の底があわだつ。
――― 死にかけの爺が、まだあれだけの『力』があるか
竿の《穂先》ひとつで、体の自由をうばわれた。
『天帝』と、その並びの大臣どもを思いだし、さらに腹の中のものが熱くわきたつ。
――― どいつもこいつも、妖物のようなものよ
死にもの狂いで『徳』をとった自分と、元から『力』のつよい者たちがおなじようにたやすく『徳』をとって坊主になるなど、おもしろくもない現実だ。
だから、『徳』をとったあとになってからも、ギョウトクは必死に修行をし、今では位のたかい坊主たちと、同じほどの《術》を会得している。
すると、まわりにいる、『人』ではない『妖物』のような者、がどれだけ多いかに気づき、おどろくこととなった。