49/193
※※ ― これがトンボ ―
――― ※※※ ―――
「兄や(にいや)、これがトンボじゃ」
つままれたそのムシは、体をこごめたりのばしたりでもがく。
その透き通ったはねをしっかりとつまんだ細い指先は、めずらしく土で汚れ、腕にもすりむいたようなあとがある。
どうしたのかと聞くと、トンボは動きが早いんじゃ、と機嫌をそこねたように口をとがらせた。
あわてて謝ると、照れかくしのように、声を大きくして言った。
「いいか、見とれよ」
ぱっとはねを離せば、トンボは勢いよくむこうへ去ろうとし、そこでぴん、となにかに止められる。
「トンボに、糸をくくりつけてあるんじゃ」
これで兄やも持てるじゃろ、とその糸先を、こちらの指に巻きつける弟に、礼を言う。
嬉しそうな弟は、すこしえらそうな態度で、今度はまた違う『ムシ』を持ってくるからな、と笑って帰っていった。
―― これが、トンボか
初めてみるそのムシが、ぐるぐるとおのれの上をまわる様に、微笑んだ。
――― ※※※ ―――




