トンボ
トクジの体は、細く固いものに、とらわれていた。
「 ―― カマキリの次はトンボかよ」
縛り上げるような力で捕らわれたトクジの体は、その細い脚で、じわじわと腹から胸の方へと、動かされる。
羽音のほとんどしない、その細長く透けた翅を、信じられないおもいで眼の端にいれる。
このまま、胸の上にあるトンボの口元まで動かされれば、あの男衆と同じめにあうだろう。
刀を抜こうにも、両腕ごと巻き付くような脚に、締め上げられている。
無駄だとわかっていながら体をひねってあばれるが、上へ上へととんでゆくトンボは、少し揺らいだだけで、びくともしない。
「セイテツ!こいつに氷を当てろ!」
こちらを見上げるあの男が迷っているのは理解できる。
トンボに氷を当てたとして、この高さから落とされたトクジは、さすがに無事ではすむまい。
だが、喰われるよりはましだ。
「おい!テツ!はやく」
「ア ソ ボ」
「・・・・」
トクジの頭の上のほうから、低いいびつなその言葉が、聞こえた。




