セイテツ来る
辻むこうに建つ宿屋よりもでかい『それ』は、奇妙なかたちの腕を器用につかい、口のものを、喰い続ける。
「 カマキリかあ 」
間の抜けた声が後ろからして、振り返ればセイテツがいた。
おせえじゃねえか、と文句を言えば、謝る男が背中にくくった荷物を、後ろの男衆に預ける。
「今日はそっちの街じゃなくて、お産の仕事のあとに、絵の材料を仕入れてたんだよ」
この辺りの人たちを、遠くにやるのに時間がかかってね、と話しながら、その手がぼうと光りだす。
何の合図もなしに、走ってとんだトクジがカマキリの脚をひとつ切りとばし、驚いたように頭を振ったカマキリの口から、男衆の骸が地面に落ちる。
すると、とたんに地面がもりあがって割れ、先のとがった黒いものが、骸を地中にひきこんだ。
「トクさん!この辻の《術》そのままなのかよ!?」
びっくりしたセイテツの声に、しかたねえだろ!と怒鳴り返す。
「あの石の下の《術》がなかったら、街の他に、こいつらが出ちまう!」
そりゃそうだけど、とため息をついた男の手が、まぶしいほどに輝いた。




