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辻の霧
他の男衆に、《術》を施した『札』を投げ渡し、かちかちと鳴りだした刀を、晒から取り出して、腰に差す。
一丁手前の道からも、その気配が感じられた。
見えてきた『化かし辻』は、どんよりとした薄暗い『霧』のようなものでかすみ、むこうが見えない。
すんでのところで足をとめ、腕を振って《印》をなげた。
霧がさっと左右にわかれ、視界が晴れる。
なにも変わらない辻が現れ、男衆の一人が気の抜けた様子で、手にした刀を辻にむけたとき、一瞬でその体が消えた。
「さがれえエっ!!」
辻の景色にヒビがはいり、初歩的な《術》にはまったおのれを恨みながら、トクジは男たちにどなった。
鏡が砕けたように去った景色のあとに、草色の、でかい『なにか』が現れる。
「と、・・トクさん、あ、あれ、」
言われなくとも、その草色の『モノ』が口にくわえているのが、いなくなった男衆だとわかる。




