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化かし辻へ
受け取った刀を、シュンカをかかえる脇にはさむと、《経》を綴る腕の動きがはやまって、綴りは一文字の《印》へと変わった。
《印》の五つを、最後の経で『むすび』おえると、ようやくシュンカをはなす。
「まだしゃべるな。あと、ここを動くなよ」
いいきかせる男の着物の袖を、細い手がつかんできた。
困ったように笑んだ男は、シュンカの頭をなでると、風を起こすような速さで動き、高い塀を飛び越え消えた。
みあげた空は、先ほどまでの青空がうそのように、黒い雲でおおわれている。
走り抜ける間にも、それから目が離せない。
「トクさん!どこに!?」
男衆の中でも腕のたつ男たちが、トクジの後ろからついてくる。
店にも数人残してあるが、この前の《大堀》の時とは、感じが違う。
「 こりゃ色街じゃねえ! 『化かし辻』だ! 」
あの、四方に術を施し、わざと妖物の通り道にしてある辻道。




