なぜ わたくしに
年寄の、シワだらけの顔の中、髭と同じくからまりあって垂れ下がる、眉毛にかくされた眼とあう。
「 ―― あれは、哀れな男だ。 そしてケイテキは、その哀れな男をつくった男だ」
「ケイテキ殿は西の将軍でございましょう。 はて、なぜ、このわたくしに、そのようなお話をなさるのか」
「おまえは坊主だ。この高山で徳を得た者は、みな仏性権化につかえ、教えを乞い、救いを求める者になる。 ―― よいか、ギョウトク。 間違っても、おまえが誰かに何かを教え、救える者とは思うな」
「 ・・・もちろん、ジュフクさまにいまさら説いていただかなくとも、心得ておりまする」
深く頭をさげて立ち上がれば、近くでギョウトクをずっとにらんでいた男たちが立ちふさがり、口々に言った。
「高山の下の中山あたりで、高山に入るための修行場というのがあるらしい」
「ほお、それはまた」
「なんでも、そこである程度の『徳』を得れば、下界で『坊主』と名乗ってよいことになっているらしい」
「それは困りましたな。偽の坊主がはびこりそうだ」
「おまえがつくったという噂がある」
「ほお」
にらんでくるのは、ギョウトクと同じ歳ほどだが、『位』も『徳』も上の《側用人》の坊主たちだ。