山ゆらす
「『ねずみ』ってのは、なんだ?」
「はなしはあとだ、いっしょに来い」
ドウアンとコウアンがめずらしく焦ったように先を進む。
裏山の石段をのぼり、南の端につくられた祈祷所をめざす。
中では、ここひと月ほどこもったままのギョウトクが、《タイガンコウ》の祈祷を続けているはずだ。
小さな堂の屋根からは、祈祷で焚く火の煙がうっすらと立ち上がり続けている。
「 ―― ギョウトクの今回の祈祷は、薬問屋の依頼だと言っていたが、嘘だろう」
決めつけたドウアンより先に、コウアンが、閉ざされた堂の扉をあけ放った。
「っ!?」
ばさばさと音をたてて舞い上がり襲ってきたのは、炎の前で祈祷する人の型を真似ていた術札たちだった。
「 はっ !」
ドウアンの一喝ですべての札が落ち、砂になる。
床に落ちていたギョウトクの法衣がとたんに、ふあり、と持ち上がり、炎の中へと飛び込んだ。
「 っ! しめろおっ !! 」
ドウアンの叫びと同時にスザクが扉をたたきつけ、コウアンが手をふりかざした。
どごおん
と、高山を揺らす音は、剣山まできこえたらしい。




