ねずみとり
「見ればわかろう。『ねずみ』とりだ」
ドウアンに睨まれた修行僧は、泣き出しそうな顔で口を、あくあくと動かし、目でスザクに助けを求めた。
それが届かないとわかると、後から出てきたコウアンに目をむける。
「おう、おう。声が出なくて苦しいか? ああ、体のしびれはじきになくなるわ。それがおさまったころに聞こうかのお。 ―― だが、おい、こぞう、 おまえギョウトクの従者として、『タイガンコウ』にいっしょに籠もってるんじゃねえのか? なんでここに、おまえがいる?」
元々低い声をさらに低め、普段とは違う言葉遣いでたずねるコウアンを見上げていた修行僧の目がくるりと白くなり、もたげた首も力をなくし地についた。
「 おまえが修行僧を本気で睨めば、気など保っておられんだろ」
あきれた声をだすドウアンが片手をあげれば、どこに潜んでいたのか、幾人もの従者が現れた。
気を失った修行僧を本堂に連れてゆくよう指示し、『気』がおかしな具合に膨張したコウアンの肩をたたく。
そこでようやく、ミツ房の周りにはられた『術』もとけ、スザクは足をすすめた。




