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誤解されている
なので、ドウアンがスザクに経を貸してやるというのはおかしなことではないが、ドウアンが、他の坊主にそんなことをしてやるような性格でないことは、ここで修業する坊主みんなが心得ていた。
風を通すための細長い窓を開け終えたコウアンは、大切な経が収められた棚の重なる房の中をゆったりとあるきながら、「みなの驚いた顔をみたか?」と低く割れた声で笑った。
房の入り口に置かれた小さな文机の横に座るドウアンは、笑うほどか、と眉をしかめる。
「おまえは、冷たい人間だと、みなに誤解されてるのだわ」と、笑ったままのコウアンが懐に手をいれ、中で小さく動かした。
とたんにおかしな声が外でして、嫌そうな顔をつくったドウアンが房から出る。
房の北側の縁の下に、見たことのある若い修行僧が転がっている。
そこへ、『ミツ房に来い』とよんであったスザクがやってきた。
「なにやってんだ?」
つまらなさそうに、そばに転がった修行僧を眺め、出てきたドウアンに聞く。




