ムシを助けたか?
「 ―― あんただって、もう終えてるだろ」
礼をかいたスザクのことばにも笑顔をみせる。
「わしは、昔からそれだけジュフクさまにほめられた。だがのー、今では落ち着いて食えとおこられるわ」
二人のやり取りをきいていた、スザクと同じテーブルの坊主たちが面白そうに頬をゆるめる。
だが、次の声に途端に顔をひきしめる。
「スザク、 ―― ジュフクさまからお話がある。 こっちへ」
コウアンと向かい合って座っていた、髪の長い男の声だった。
コウアンと対照的な雰囲気のドウアンは、同じく側用人の一人だ。
めんどうなのを隠そうともせずに、スザクはテーブルをまわり、声をかけた男たちと、この高山の最高位にある、年寄のすわるテーブルへとむかう。
「 おまえ、ムシを助けたことがあるか? 」
いきなりの年寄の問いに、はあ?と声をあげたあと「ねえよ」とこたえる。
「ほお、そおか」
漬物をつまんだ年寄は、箸を動かす手もとめなかった。
「・・・・で?」
眉をよせて立ったままのスザクが先をうながせば、さきほどこっちへ来いと言ったドウアンが「それだけだ」と白湯を飲んだ。




