高山(たかやま)の朝
―― その二 ネズミとり ――
朝、靄たつ前の暗い山中に、経を唄う坊主たちの声が響きはじめる。
大教堂での務めが終われば、音も立てぬ動きをする、千人ほどの男たちが、それぞれの仕事をし始める。
高山に、人の気配が満ちるのはこの時間帯だけである。
まずは、広い敷地内と大小の教堂の掃除があり、事務を扱う者は天宮のシャムショのように雑多で間違いの許されない《務め》の内容を確認、分担などを指示し、まだ修行中の身の坊主たちは、千人分の質素な飯の支度をする。
飯をとる場所は、上の位の坊主たちはジュフクと同じ食堂で。
中階以下の者たちは、それぞれの居房にある食堂でと決まっており、配膳はジュフクいがいは自分でおこない、合図の鐘の音で一斉にとる食事は、やはり最小限の音しかしない。
ジュフクと同じ食堂で飯をとっていたスザクは、食べ終えて席を立ち、自分に与えられた部屋にさがろうとして、よびとめられた。
「 ―― おまえ、かわらずに飯食うのが早いのお」
ジュフクの側用人であるうちの一人、コウアンだった。
スザクとおなじように、からだの大きな禿げた男だ。




