心配ごと
申し訳ございません。『カン』については、『オニの』をひろい読みしてください。。。
「 ―― おれが知ってる子どもの気配じゃねえんだ。・・・カンのときとももちろん違う。 だがなあ、・・・なんつうか、妖物じゃあねえし、他の嫌なモンとも気配は違うし・・・」
今までに感じたことのない気配なのだと唸り、だから嫌なんだ、と空の猪口をセイテツにつきだした。
「トクさんがわからないんじゃあ、おれになんてまったくわからん。スザクでも連れ戻してこようか?」
嬉しそうに酒をつぐ男に、なんだよそんなに淋しいのか、と聞けば、にやりとして、シュンカがな、と自分の猪口にも酒をたす。
思わずトクジもにやりと笑う。
「あほが。 あと五日もすれば、スザクのことなんざ忘れて、『トクジさま』、としか言わなくなるさ。 それに、あっちはあっちで、高山で重宝されてるようだしな。 ―― スザクが高山に入ってもう一月近くだが、その間ギョウトクは『タイガンコウ』の祈祷で、籠もったままだとよ」
「え?じゃあ、まだふたりは会ってないのか?」
「まあ、会ったからってギョウトクってやつが、坊主をやめるとも思えねえが。 ―― とりあえず、スザクがでばったおかげで『中山』にあった偽坊主の修行場はなくなったし、例のチゴ茶屋じゃあ、先日急に、番頭だった男が、自分がチゴと坊さんを殺して心中にみせかけましたって書き置きして、自害して別の騒ぎになったりで、『高山』の心配ごとも、少しは減ったんじゃねえのか」
ああ、とうなずいたセイテツが、「あの番頭もひどいもんだな」と顔をしかめる。
「自分の店のチゴを口説こうとして、そでにされたからって、殺すだなんて・・・。しかも、心中にみせかけようと相手の坊主を探して『中山』をうろついてたときに、高山からの差し止めの書状を持ってきてたザイアンさんをみつけて殺したんだろう?」
まったくひどいと憤る男の猪口に酒を注ぎ返してやりながら、トクジは小声でつぶやいた。
「 番頭が、ほんとうにやったんならな 」
「・・・え?どういうことだ?・・まさか、それも、」
言葉がつげないセイテツに、トクジは嫌そうなわらいをかえした。




