おまえがしっかり
おびえたように飛び立った鳥の羽ばたきに苦笑したコウセンが、ぽつりと言う。
「ギョウトクは、南の出のようだ」
「じゃあ、あんたのいう『凶』っていうのは」
「今は高山におるのだから、はなしがちがう」
「なんだよ・・・」
乗り出した身をもどせば、だがな、と庭に目をやる男は続けた。
「 嫌なやつにはかわりはない。 ―― スザクを、しばらく高山にやろうかと思ってる」
トクジは思わず笑い、椅子に背をつけ「なら、くそじじいが喜ぶぜ」と力をぬいた。
「なので、下界にいる間のシュンカは、おまえがしっかりと目をひからせろよ」
「っそ、れは・・・。まあ、やるこた、やるが・・・」
「わかってるだろうが、色街に入ったとたん、あの子の『気』は吸い取られる一方になる。さらに他からも、『気』を狙った者がくるかもしれん。 ―― 忘れるなよ。 あの子の分ける『気』の一滴は、凡人の水瓶ひとつ分だ」
あらためてトクジは腹に力をこめてうなずいた。
そんな話し合いがあったことも知らずに、シュンカは笠をかぶって、一人でここまで通ってくる。




