あるのは 黒い噂
《いやなこと》は『ゆらぐ噺』に集中してあります。見てくださるときは、要注意アリ。
「 こりゃあ、 本当は、おまえに言うべきじゃねえのかもしれねえが、・・・おれはな、こんな身分なんで、どっかの将軍の話はしねえよ。 ―― だがな、その男とは別に、好きになれねえ男がいてな。 ・・・・ギョウトクという、坊主を知っているか?」
睨むような目をむけた。
「 『ギョウトク』? 知らねえな。 偽の坊主ではなく、高山の坊主なのか?」
「 そうよ。 ―― この宮でおこった《嫌な事》を、仕組んだ一人なんだが、天帝を前にしても、平然と嘘をつける人間だ。 おのれの顔から血がたれても、動じることもなかったらしい」
「そりゃおれなんかより肝が太い。 ―― その坊主、何をした?」
「人をたぶらかして、ホムラという軍人に渡した。 餌にされたり、駒にされたりといろいろだが、その坊主が『力』をかしたという証は、どこにもないから、いまだに高山にいる」
「ほんとうか? よく、あのじじいが許してるな」
「許すも許さぬも、『徳』をとりあげる口実がどこにもない。 あるのは、《黒い噂》ばかりだ」
「 うわさ 、な」
トクジが『徳』を返したのは、自分からだった。
本来は高山の最高位にいるジュフクからの書状が届き、返すものなのだが、それがなかった。
なので、おのれから申しでた。




