どっちもいい男
小屋に戻ると、箱ごと《ギョウトク》は、いなくなっており、オフクはうってかわった、穏やかな顔で眠っていたという。
少しの間、外をさがしていたら、むこうの山から煙がひどくあがるのを見て、《誰かが》ギョトクを荼毘にふしたのだと悟った。
「 ―― その火が、ずっと燃えて、ススキ原を全部燃やした」
「・・・その経って、もしや・・・」
「さあなあ。 ・・・燃える、ススキの中に、箱をかかえた、でかい坊主をみた、って話もあるが、どこまで本当かなんて、わからねえだろ?」
「・・・ああ、『噂』なんて、そんなもんだからな」
二人とも猪口を飲み干す。
そういやあ、とコウドが面白いことを思い出したようにトクジに酒をつぐ。
「シュンカも上に帰っちまったけど、やっぱりさびしいもんかい?『べた惚れ』のトクさんとしては」
「そりゃあ、おめえ、シュンカが我慢できなくて、すぐに会いにくるさ」
「なるほど。 ―― シュンカの親父どのに似ててよかったな」
「うるせえなあ。どっちも『いい男』って、ことだろよ」
トクジにむけるあのまなざしも、握った手をふったときにみせる微笑みも、すべては、なくした父親に続くものだなんて、とっくに気づいてはいたが、 ―― 囲いの中から、さけんでこちらをひきとめたときのシュンカを思い出す。




