来てくれ
そうして、月に何度か、シュンカはトクジの元に通うことになったのだが、子どもの周りを納得させるのに、予想外の手間がかかった。
まずは、セイテツが、真っ先にトクジのところにやってきて、この話はどういうことだ、と、つめよった。
どうもこうもおれが経を教えるだけよ、と言えば、それはスザクの役目だろうとひどく機嫌がわるい。
「あのバカが人にものを教えるか?」
わかっていることを確認すれば、言葉につまる。
「 ―― だが、今までだってスザクに書物を借りたりして」
「そうだ。あのバカは貸すだけだろう? おれだったら、手取り足取りおしえてやれる」
「・・・トクさんが信用おけるのはわかってるんだけどさ・・」
もごもごといいわけのようなことを口に、頭をかいた元神官が、すがるようなめをトクジにむけて、いっしょに天宮にきてくれと言う。
おれはべつに嫁によこせと言ってるんじゃねえんだが、と言いながらもトクジは足をむけることにした。
何年か前と同じように、きりがなさそうな階段をのぼり、しゃべる石の犬に「こいつか」「こいつだ」と敵意をむけられて門を過ぎ、宮の検閲所のような『シャムショ』に、セイテツがトクジを連れ帰ったのを告げたとたん、 ―― まちかまえたように、その男が奥から現れた。




