ムシのこえはない
ようやく、最後の章です。
―― その十四 還る ――
いつのまにか、風が冷たくなっていた。
もう、ムシのこえがなくなった詰所の庭をみながら、コウドとトクジは酒を飲む。
「 ―― トクさん、けっきょく、《ギョウトク》・・・いや、《ショウトク》は、どうなったんだ?」
街できいた噂によると、《ギョウトク》という『偽坊主』が、徳をとりあげられ、さらに罪を重ねていたため、天宮におくられたという。
《四の宮》というところが、罪人を処罰するというのだが、たしかトクジは、その宮の大臣を知っているはずだ。
「 へっ。 どうでもいいじゃねえか。 ―― それともコウド、おめえも噂好きのやつらみてえに、あの坊主がどんな《ひどい》死に方したのか、ききてえってのか?」
「 いや、そうじゃあねえけど。 ―― でもな、最後に、ムシではない《ギョウトク》に会わせてやりたかったなと、思ってな。 いや、《ショウトク》のためにじゃなく、・・・弟おもいの、《ギョウトク》の、ためによ」
しんみりと酒をなめる男は、自分の兄弟でも思い出しているのか、しばらく黙る。




