妖物とは
つまらなさそうに聞き流した男は、トクジを支えるシュンカに下がってろと言い、背中に負った刀の柄をにぎる。
「 ほお、これはこれは。 スザク殿のおでましか」
砂ぼこりでかすんだ中に、《ギョウトク》と名乗っていた《ショウトク》が立つ。
「やだなあ。気配がほとんど妖物じゃないかよ」
セイテツがいやそうに、血染めの着物の坊主をみやる。
ききとがめた男が眉をよせた。
「 『妖物』だと? それは、あの天帝のような者たちではないか。 人とは違う生き物だ。人になど何の興味もなく情もないくせに、この世のすべてをつかさどる『力』をもつなど、いったいこの世はどうなっておる? 高山で、『仏性権化』におつかえする身となり、人でもない『人』がおることを知ったが、それもまた、『妖物』とおなじじゃ。 坊主になって『徳』をとり、どれほど願って修行しようとも、兄やの身体は治るどころか、年月とともに弱くなるばかりだわ。 ―― それならばいっそ、『妖物』どもの『力』をうばい、『妖物』のような坊主のもとで得た《術》でもって、兄やを救うわ!」




