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きられた右手
一瞬で綴った《経》をふりかざした左手で投げてくる。
空間が縦にさけて亀裂がはしり、衝撃で辻の角にあった石が吹き飛ぶ。
高くとんで避けたトクジが石を蹴り、刀にのせた《経》を、相手の足元にとばすが、簡単にさけられる。
ヒビの入った景色をみまわし、にやけた顔にもどった《ギョウトク》が、楽しげに口にした。
「さて、シュンカを隠した囲いはどこか?」
そして懐から取り出したのは、さきほどコウドに落とされた、おのれの『右手』だった。
焦げ付き、もはや人の肌の色をしていないそれを口にくわえると、次にはまた、懐から茶色い瓶をとりだして蓋をとばし、かたむけた口から流れる液体を、右手先の、血にぬれる切り口にかけてみせた。
「 ! ! ! ! っ!!」
続けて文字を発っすれば、断ち切れた傷口が光りだし、歯をくいしばって、くるしげに顔を染めた《ギョウトク》が、くわえていた右手を、光る断面にあてがった。




