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偽の坊主
「 わざと合わなかったんだろ? あいつは、鼻がいいからな。 血のにおいはすぐに気づかれる。 ―― チゴ茶屋で死んだ、高山の坊主のことを、知ってるか?」
「あれはおれが始末した」
「―― あっさりと口にするな」
「ほお、怒っているか? ―― 坊主になりたいという者が、かようにおるのに、なぜそれを、手伝ってはいかんのだ?」
「あんなとこじゃ修行はできねえし、『徳』はとれねえだろ。 偽の坊主にしかなれねえ」
「そうか。『徳』をとれなければ偽のぼうずか」
「てめえのように、『徳』をとっても、『偽の坊主』は、いるがな」
「・・・なにを、知っとるんじゃ?」
にやけていた《ギョウトク》の顔がすっと表情をなくした。




