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トクさんおそい
ぼっ、と光る印がむこうから投げられ、コウドを狙う《手》を囲んで捕らえた。
「坊主の術で助けてやんだから、感謝しろや」
「トクさんおそい!」
「トクジさま!うえっ!」
シュンカが叫ぶのと同時に空から網のような光が落ちて、捕らわれたトクジが辻の真ん中へしゃがみこみ、とたんに割れた地中からでた、黒く長い蟲の脚の先端が、トクジを背からつらぬいた。
コウドとシュンカがそろって名をよんだ男は、網の中でもがき苦しみ、体を現したツチグモの顔が《ギョウトク》になっているのを目にすると、うめき声をあげて、その額へつづった《経》をなげつけた。
ひどく強い光であたりが真っ白になり、目もあけていられない。
「こっから出るなよ」
いきなりすぐそばできこえた声に、シュンカがゆっくりと目をあければ、白い景色の中に、何の傷も負っていないトクジが、晒に巻かれた刀を手に立っていた。




